競馬ファンなら知らない人はいない。
「地方競馬の鉄人」「大井の帝王」
通算勝利7424勝のレジェンド、的場文男騎手(68歳)が3月31日付けの引退を表明した。
その戦績は、まさに前人未到だ。
51年に及ぶ騎手生活で通算4万3497回騎乗し、挙げた勝利は7424勝。もちろんこうした記録は、地方競馬の最多勝利記録であり、最年長勝利記録であり、最多騎乗記録である。どの記録を取っても、誰も真似のできないとんでもない大記録だ。
1956年9月7日生まれ、福岡県出身。
年齢で言うと、私の2歳上の同世代である。
だから、これまで競馬界の鉄人をいつも注目していた。
大井競馬場に行っても、的場騎手が出るレースは、馬で予想するというより「的場騎手が乗るからこの馬にしよう」となってしまう。
その騎乗スタイルは、独特だった。
最後の直線に入り馬を追い込むときは、そのお尻が上下する。
膝を屈伸させて、馬の動きに合わせて、しゃがんだり立ったり。
その騎乗にどんな効果があるのかはわからないが、馬と一緒になっていつも最後の力を振り絞っているように映った。
的場騎手は、長年のキャリアで培ってきた自身の技を、マスコミに披露している。(2月15日、日刊スポーツ)
なぜこれだけ勝てるのか?
その秘密は、両足のくるぶしにあるそうだ。
「馬乗りは、しめる力がないと駄目。しめるのはくるぶしのあたり、馬と接触している10センチぐらい。例えば運動会でわが子をおんぶして競争するとして、上でぶらぶらしてしてたら走りづらいでしょ。(中略)ゲートが開いたらビュッとしめて。そうすると55キロの馬を55キロで乗れる。上でぶらぶらしてたんじゃ、55キロが60キロになっちゃうよ。それじゃ勝てない。若いころに考えはついた」
この奥義を紹介していた新聞には、的場騎手のくるぶしの写真も載っていたが、そこはタコになって大きく膨れ上がっていた。
しかし、そのくるぶしこそがプロの誇りであり、的場騎手の勲章なのだろう。
馬に蹴られて内蔵破裂の大けがを負ったり、顔を蹴られて顎を複雑骨折し歯を失ったりした。
それでも馬と一緒に走り続けてきた。
競馬ファンなら、これまた誰もが知る的場騎手にまつわる「大井の七不思議」がある。
東京ダービーに39回騎乗しても2着10回で未勝利。
しかしこれも「2着10回も記録でしょう」と的場騎手は笑い飛ばす。
同世代の引退は寂しいが、最大の敬意を払って「お疲れさまでした」というしかない。すごい騎手がついに馬を降りる。
令和の断面