vol.225「ドライバーが半端ない竹田麗央」

令和の断面

 日曜日の午後(9月29日)、少しのんびりできる時間があったので、自宅でゴルフの日本女子オープンをテレビ観戦した。
 最終日後半、優勝争いは竹田麗央、山下美夢有、岩井明愛の3人に絞られる。
 最終組で竹田と山下が競り合う中、一組前を回る岩井(明)が首位の竹田に1打差まで迫ってくる。
 スコアボードで竹田も岩井のチャージは、分かっていたはずだ。
 そして山下との攻防。

 それでも竹田が動じることはまったくなかった。

 いや、竹田の心の中では、いろいろな思いが交錯していたのだろう。
 しかし見ているかぎりでは、堂々として落ち着き払っていた。

 勝負の最終18番。
 竹田がアドレスに入ると、キャディーの大きな声が飛んだ。

 「電話、やめてください」

 ティーグラウンド周辺でギャラリーが携帯電話をかけていたのだ。

 集中力を上げて打とうとしていた矢先に、仕切り直しになる。

 観ていて嫌な予感が走った。
 こうした予想外の間が、往々にしてミスショットを誘う。
 スポーツ、とりわけゴルフでは、「あるある」だ。
 少しでもこの出来事を嫌がる気持ちが働いたりすると、その気持ちがショットの乱れを生むからだ。

 もう一度仕切り直してティーショットを打つ竹田。

 どうなるか?
 怯むことなくフルスイング。渾身のドライバーは、まったく曲がることなくフェアウエーのど真ん中を捉える。しかも、このホールでも実力者の山下を軽く40ヤードほど置き去りしていた。

 この1打を見て、竹田の勝利を確信した。

 何があろうが動じない。
 そのメンタルの強さ、いや正確に言うなら、勝利目前でもしっかりとコントロールされている彼女自身をそこに見たからだ。

 18番をパーでしのいだ竹田は、結局、追いすがる岩井(明)に2打差、山下に3打差をつけてメジャータイトルを獲得した。

 優勝インタビューで竹田は言った。

 「ボギーでもバーディーでも(気持ちを)表情に出さないようにしています」

 そればかりか、最後のパーパットを沈めて優勝を決めた瞬間でも彼女が表情を変えることはなかった。

 ゴルフはメンタルなスポーツだ。
 気持ちが揺れれば、プレーが揺れる。
 そのことをしっかり意識して竹田は戦っている。

 この優勝で、今シーズン7勝目。
 年間7勝は、歴代3位タイ(5人目)。
 しかし、彼女はそんなことに興味はないだろう。
 もうすでに来季からのアメリカツアー参戦を視野に入れている(12月の最終予選会参加を検討中)。

 身長166センチ。
 恵まれた体格を活かしたドライバーは、アメリカでも彼女の最大の武器になるだろう。
 しかも、この日はグリーン周りのアプローチも冴えわたっていた。

 プロ野球は巨人ファン、そしてドジャース大谷翔平に憧れる21歳。
 女子ゴルフ界から、また一人スケールの大きな選手が誕生した。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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