令和の断面

vol.224「大谷選手には、もう何も言いません」

SHARE 
  • 連載一覧へ

     前略
     大谷翔平さま
     前回の本コラムで私は以下のようなことを書きました。

    【前人未到の「50/50」を達成するためには、できるだけ早くホームラン50本を達成することだろう。残り数試合になった時には、大谷選手も数字を意識することになるだろう。「チームの勝利が最優先」と語ってきた彼でも、スコアボードを見ることになるはずだ。】

     そう、元阪神の糸井嘉男氏が言っていたのです。
     「スコアボードの数字を見ると地獄に落ちるぞ!」と昔、コーチに言われたと。

    だから
    【さすがの大谷選手でも、記録を意識してホームランを狙いにいけば、打てる確率は低くなる。】
    と書いたのですが、まったくの杞憂に終わりました。

     もう脱帽というのか、本当に失礼致しました。

     日本時間9月20日のマーリンズ戦で「50/50」(50本塁打50盗塁)を達成。それどころかこの試合で6打数6安打2盗塁、3打席連続ホームランを放って、その記録を一気に「51/51」まで伸ばしてしまいました。

     あなたは、私の心配に自らの言葉で応えてくれました。

     「ホームランは狙いにいくと打てないので……」

     だから結果を考えずに素直に打つ……と。

     彼は、記録やホームランを意識したりすると、思うようなバッティングができなくなることを百も承知だったのだ。

     ところが老婆心ながら、私は書いてしまったのです。

    【できることなら、そうした意識が働きはじめる前に、50本塁打を達成してしまうことだ。盗塁は、四球でもエラーでも出塁すればいくらでもチャンスがある。】

    【だからとにかく早く打って欲しい。大記録達成で願うことは、それだけだ。
    そうでなければ地獄に落ちる。】

     大谷選手
     あなたは、地獄の淵をなめることもなく、軽々とその向こう側にあっさりと飛び去って行った。しかし、この事態は大歓迎です。

     ある野球ファンが言いました。
    「大記録達成までにもう少し時間が欲しかったな。あまりにも早く決めてしまったので、喜ぶ暇もなかった(笑)」

     でも、これで良かったのです。記録を前に時間がありすぎるとあれこれ考えてしまう。だから一気に決めてしまうしかない。
     それを誰よりも知っていたのが大谷選手自身だったのです。

     これは大相撲で優勝を前にした力士が「一日一番、集中するだけです」と言うのと同じ原理原則です。そして、それを言い続けていた関脇・大の里が秋場所を制しました。

     この原稿を書いている24日(火)早朝の時点で「53/55」で残り6試合。
     もう何も言いません。
     好きなところまで行ってください(笑)。
                                   草々

    青島 健太 Aoshima Kenta
    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
    2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
    バックナンバーはこちら >>

    関連記事