「大相撲の魅力は3密にあり」
大相撲7月場所が、3月の春場所以来4か月ぶりに開催されることになった。
本来は、名古屋で行われる7月場所だが、会場を東京の両国国技館に変更し、新型コロナウイルスに対する感染防止ガイドラインを徹底することで、無観客ではなく「有観客」で実施することになった。
5月場所が中止になっているだけに、好角家にとっては待ちに待った大相撲観戦だが、開催の実施内容を見ると果てしてこれが大相撲か…と残念な思いもする。
まずは、国技館への入場制限だが、11000人に入るキャパシティーに対して、1日2500人までとなる。満員の約四分の一だ。通常は4人で座る升席を1人で使い、その他の席も隣を3席空けて座わり、前後も互い違いに座る。
場内での酒類の販売はなく、客席からの声援も自粛され、拍手での応援が推奨される。
土俵に上がる力士たちもさまざまな制約の中で相撲を取ることになる。
支度部屋でのマスク着用。また出番を待つ力士たちの間には、アクリル板が置かれるらしい。髪を結うのも、支度部屋での滞在時間を少なくするために、極力、各部屋で済ませて両国にやってくる。
力士は、土俵に向かう直前にマスクを外し、取り組みが終わって支度部屋に戻ったら、また新しいマスクを着けるとのこと。
とにかく土俵で戦う時以外は、マスクを着用して、しかもできるだけ力士同士が接触しないように行動しなければならないのだ。
この他にも、観戦に関するガイドライン(検温や消毒、開場時間8時が13時に変更、等々)が細かく決められていることに加えて、力士の行動にもさまざまなルール(花道の歩き方、十両は別の控室使用、等々)が設けられている。
今回行われる予防策は、感染を防止するためには守らなければいけないものだが、本来の大相撲を考えると悲しくなってくるような規制ばかりだ。
なぜ、大相撲はこれだけの予防策を講じなければならないのか。
逆に言えば、自粛される様式にこそ大相撲の魅力と伝統が凝縮されているからだ。
そもそも「まわし」だけで相手と戦う相撲は、濃厚接触そのものだ。
土俵下からもらう力水もみんなで同じ樽の水を口にする。関取の世話をする付き人も密な距離で動きまわる。支度部屋も密な空間で多くの力士が準備を共にする。
これを楽しむ観客も密であることが相撲らしさの原点だ。土俵下の砂被りでは客が所狭しと詰めて座り、升席も密な空間で飲食を共にする。
相撲を取る方も、観る方も、大相撲は3密の中で行われてきたのだ。
だからこそ盛り上がり、だからこそ楽しい。
つまり、大相撲とは3密を経験することであり、その密の中に興奮と感動が作られてきたのだ。
だから、コロナ禍の開催に当たっては、ほとんどの様式の変更を余儀なくされてしまう。
ただ、嘆いているのは確かだが、絶望しているわけではない。
まずは、やれる範囲でやっていくしかない。
しかし、大相撲の様式と距離間こそが、日本の文化なのだ。
私たちは、これを守り、取り戻さなくてはいけないだろう。
大相撲が、これからどのような内容で開催されていくのか。
大相撲を観ることが、コロナ禍からの復活のバロメーターになる。
頑張れ!大相撲。
頑張れ!日本。
7月場所は、19日から始まる。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。