令和の断面

【令和の断面】vol.30「いま、原・巨人の野球が面白い」

SHARE 
  • 連載一覧へ


    「いま、原・巨人の野球が面白い」
     近頃、巨人・原辰徳監督の采配が冴えまくっている。
     と言っても、賛否両論が渦巻いていることは確かだが…。

     例えば、8月6日、甲子園での阪神戦。
     巨人の先発は、ここまで2勝3敗のメルセデス。阪神の先発は今シーズン初登板の高橋だった。7回を終わって4対0で阪神がリード。巨人の強力打線を考えれば、残す8回、9回で逆転も十分に考えられる。阪神も抑えピッチャーに不安を抱えていた。ところが8回裏に阪神打線が大爆発。一挙7点を取って11対0と大きくリードを広げた。ここまでメルセデスの後は、沼田、宮国、田中(豊)、堀岡と5人の投手をつぎ込み、最後は堀岡が満塁ホームランを打たれてひとりで7失点と完全にノックアウトされてしまったのだ。

     ここでの投手交代は当然のことだが、1アウトランナーなしの場面で原監督がマウンドに送り出したのは、内野手の増田大輝だった。まだブルペンには数人のリリーフピッチャーも残っていたが、原監督は躊躇(ちゅうちょ)することなく増田を投げさせたのだ。
     メジャーリーグでは、よく見る野手の登板(イチローや青木などが投げている)だが、巨人では74年ぶりの野手による救援登板だった。

     原監督は、増田の起用を次のように語っている。
    「チームの最善策ですね。6連戦という連戦、連戦、連戦の中であそこをフォローアップする投手はいないですね。1つの作戦だからね。あそこで堀岡を投げ(続投)させることの方がはるかに失礼なこと」

     野手の登板は、その時点でゲームを捨てたことになる。何点差になろうが、それでは見に来たお客さんに失礼なばかりか、野手のボールを打つことになる相手打者にも非礼なことになる。ピッチャーが残っているなら、最後まで投手を投げさせることがプロ野球ではないか?
     それが原監督への批判の主旨だが、みなさんはどう考えるだろうか。

     8月9日の中日戦(名古屋ドーム)では、8人の投手を小刻みに継投する投手リレーを見せた(試合は2対2の引き分け)。
     発想の原点は、オープナーという考え方だ。
     先発投手が足りない時や、ローテーションの谷間に中継ぎの投手を短いイニングでどんどん投入していく投手起用だ。
     この日の先発は、宮国。オープナーの宮国が2回2失点でマウンドを降りると、その後は今村、鍵谷、大江、高梨、大竹、中川、田中(豊)と繋いだ。

     オープナーという考え方は、そもそも立ち上がりに不安のあるピッチャーに代わって1回、あるいは2回を任されて、最初に投げる抑え投手や中継ぎ投手のことを意味していたが、今では前述の小刻みな投手リレーを含んで、さまざまなバリエーションが生まれている。これもメジャーで始まった起用法だが、去年から日本ハムの栗山英樹監督が積極的に取り組んでいる。

     こうした投手起用も、投手陣の台所が苦しいとはいえ、お客さんに賄い料理を出すような話で、「失礼なのでは?」との声もあるが、投手の疲労軽減やチーム事情を考えれば、合理的な作戦でもある。
     果たしてファンには、どう映るのだろうか?

     私は、原監督を全面的に支持する。
     というか、こうした選手起用は、アメリカではもうすでに定着している。選手を故障から守り、持てる布陣を有効に活用するためには、日本の野球ももっと大胆に取り入れるべき起用法だと思う。

     そして、私が原監督を推すもう一つの理由は、彼がコロナ禍で短くなったシーズンを何とか盛り上げようとしている気がするからだ。短期決戦になった変則的なシーズンは、思い切ったことをどんどん仕掛けていくことが最善策だが、同時に話題づくりという観点からも原監督は確信犯でこうした作戦を仕掛けている。
     その余裕というか、チャレンジ精神が素晴らしい。
     今、巨人の野球は、たとえ負けていても大胆な采配が面白い。 

    青島 健太 Aoshima Kenta

    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

    バックナンバーはこちら >>

    関連記事