「アスリートは上質な表現を目指せ」
このところアスリートのファッションや髪型、女性の場合にはメイクやアクセサリーが問題視されたりする。しかも、それが大事な試合の敗因や「選手としての心構え」を問われる要素として語られることがある。
そうした考え方にも一理あるかもしれない。
試合中に髪型ばかり気にしている選手がいたら、「もっと試合に集中しろ」と言ってあげたく時がある。ピアスやネイルが競技力に関係あるか?と言われたら、「ない」と言うのが一般論だろう。
しかし、髪形が決まらずイライラしたり、ピアスやネイルに自信を感じる選手は、それがないお陰で調子が出ないことだってある。
もしそれが「自分が自分らしくあるための装置」になっているのなら、そこにも入念にこだわって、力を発揮するための準備をすれば良いのだ。
ノルディックスキー・ジャンプ女子の高梨沙羅選手が、都内で行われた「#髪色自由化」プロジェクト発足発表会に出席した。これはどうも、ヘアカラーのメーカーが仕掛けているイベントなので、彼女自身の主体的な活動ではないようだ。
しかし、高梨選手がそこで述べた持論には、前述の論争への答えがあるような気がした。
競技によって髪形やアクセサリーもさまざまだ。例えば競泳のようにまったくそうした要素を取り入れることができないスポーツもある。しかし、この問題は、競技中だけでなく、プライベートも含めて俎上に登ったりするのだ。
高梨選手は「私個人の意見では、やっぱりその、髪型一つでその人という印象もそうですし、見た目的な部分で大きく変わってしまう。私もボブの時と、ロングの時ではまったく違う人に見えるみたいで、よくまわりの人から『(誰なのか)よく分からなかった』と。髪を短く切った際には『本人だと分からなかった』と勘違いされるくらい、髪型で人の外見は変わってしまう。髪型が強制されてしまうのは、その子の個性が消えてしまうので、さびしいな、とは思います」と話した。
髪型を気にしてプレーに集中できないのでは?との声には「私の中では、(特にジャンプ競技は)プレーのモチベーションを上げるために、コンディショニングの一つとして、メンタルのモチベーション、コンディショニングを整えていくというところはすごく大事になってくる競技。そこに向けての、自分の機嫌取りじゃないですけど、自分の機嫌くらい、自分で取らないといけない。その一つとして自分の髪型などを整えていきたい」と自身の考えを述べた。
坊主頭が専売特許だった高校野球も、いまは丸刈りの野球部の方が少ないくらいの印象を受ける。
スポーツには、様式や礼儀作法、姿勢やカタチから入る要素もたくさんある。
高校野球の丸刈りには、野球に賭ける一途な思いやチームメイトとの連帯感も表現されている。しかし、それが強制されたり、習慣だからということでやらされたりしているなら意味がない。
高梨選手は言った。
「やっぱり自分のなりたいイメージというか、なりたい自分になることは大事だと思います。自分の個性は殺したくないなとは思います」
そう、実はファッションも髪形も、ネイルもアクセサリーもすべてその選手の一部なのだ。その自分を上手くプロデュースできない選手は、プレーも上手く表現できない。アスリートが目指すべきは、上質な自己表現だ。
※高梨選手のコメントはENCOUNTからの引用
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。