令和の断面

【令和の断面】vol.159「男子ゴルフ金谷拓実、覚醒の予感」

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    「男子ゴルフ金谷拓実、覚醒の予感」

     男子ゴルフ、日本ツアー選手権森ビルカップ、まだメジャーで勝ったことがない金谷拓実(25歳)は、最終日(6月4日)14番を終わって2位グループと1打差で首位を守っていた。4日間、ここまでずっと首位を譲ることはなかった。
     しかし、15番(638ヤード、パー5)でトラブルに見舞われる。
     テーショットをひっかけてボールは左側のコース(17番)に転がっていく。

     選択肢は二つ。このまま17番のコース上を前進して、アプローチで15番のグリーンを狙うか、狭い木々の間を抜いて15番のフェアウェイに戻して3打目からやり直すか。しかし、コース間に生えた木々は密集し簡単に越えられる高さではない。
     ボール地点に来た金谷は、迷うことなく短いアイアンを手にし、正確なショットで自身のボールを15番のフェアウェイに置いた。
     このまったく躊躇(ちゅうちょ)のない決断を見た時に、金谷の中にある揺るぎない覚悟のようなものを感じた。

     1打1打に一喜一憂しない。
     たとえミスをしても、強い気持ちでリカバーしていく。
     それができなければ優勝なんてできるはずがない。

     そんな思いが伝わってきた。

     結局、このホールは4オン2パットでボギーを叩いた。
     これで一緒に回る中島啓太、宋永漢(韓国)と10アンダーで並んでしまう。

     精神的には厳しい場面だ。
     この流れだと、追いついた面々の方が優位にプレーできる。

     ところが、この日の金谷ここで崩れない。
     16番は、190ヤード(パー3)。

     池越えのショットは、正確な距離感が求められる。
     中島と宋が、安全にグリーンの右サイドを狙ったのに対し(二人のボールは、ピンまで15メートル以上)、金谷はピンをデッドに狙い5メートルに付ける。中島と宋が3パットでボギーとする中、金谷はパーをキープし、またまたここでひとり抜け出す。

     攻め続ける金谷が、勝負を決めたのは最難関17番のセカンドショットだった。
     これまた池越えのショット(残り195ヤード)。ボールはラフにハマってほとんど見えない状態だったが、これを6番アイアンでロブショットのように高く打ち上げてピン横50センチに寄せる。
     これ以上ない完璧なショット。このバーディーで2位グループと2打差となり、18番をパーで締めて優勝を決めた。

     金谷の母、美也子さんは乳がんで闘病生活を送っているそうだ。

     優勝インタビューで金谷は言った。
    「(最近優勝していないので)早く優勝して、励みにして欲しいと思っていた」
     17番の2打目も
    「攻めるしかない、と開き直った」

     このところ優勝から遠ざかり、自信を無くしかけていたという。
     しかし、そんな自分を奮い立たせた。

    「どう学んで、どう良くしていけるか。ふてくされている場合ではないと思った。母の姿を見て、また頑張れた」

     大学(東北福祉大)の先輩でもある松山英樹を目標に追いかけてきた。
     アマチュア世界ランキング1位に輝いているのも、日本男子では松山と金谷だけだ。この念願のメジャー初制覇は、金谷の時代の「狼煙」のような気がする。

    青島 健太 Aoshima Kenta
    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
    2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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