「学生スポーツの使命と伸びしろ」
今年の甲子園ボウルは、関西の雄・関西学院大学対法政大学の対戦となった。
アメリカンフットボールの全日本大学選手権も76回目となるのだから、大変な伝統を誇っている。野球でおなじみの阪神甲子園球場がアメリカンフットボールの舞台となるのだが、内野の土の部分にも芝が植えられて全面天然芝の上で戦えるのは、この大会の歴史と伝統があればこそのことだろう。また同時に学生スポーツの人気、そして関西におけるアメリカンフットボールの普及が甲子園の臨時改装にもつながっているのだろう。
試合前半は、法政大のディフェンス陣が頑張り白熱した好ゲームとなったが、後半、力の差を見せつけた関学大が大量点を奪い「47対7」で関学大が4連覇、史上最多の32度目の優勝を果たした。
さて、この後は、学生チャンピオンに輝いた関学大が、正月に社会人の優勝チームと東京ドームで対戦(ライスボウル)することになっていたのだが、来年(2022年)からこの試合が行われないことになった。
理由は、毎回、社会人のチームが勝って両者の力の差が歴然としてきたからだ。
実は、同じような経緯を辿ったスポーツが他にもある。
ラグビーもかつては大学チャンピオンと社会人のチャンピオンが、1月に国立競技場(日本選手権)で激突してきたが、こちらも学生が社会人に歯が立たなくなって(学生が社会人を破ったこともあるが…)、近年は社会人だけの大会となっている。
学生の力不足を嘆くつもりではない。
こうした「学生対社会人」の対戦が消えていくことを残念に思っているファンの声も承知しているが、これはある意味では、極めて健全なことが起こっていると言えるだろう。
体格も経験も上回っている社会人が、普通に学生と戦えば勝つのが当たり前だ。
かつて、このカード(学生対社会人)が組み込まれた背景には、社会人チームの環境がまだまだ整っていなかったことが挙げられるだろう。働きながらプレーを続ける社会人の選手より、学生の方が豊富な練習量を誇り競技に集中する環境が整っていたからだ。
ところが近年は、ラグビーはプロ化され、アメリカンフットボールもそれに相当する社会人リーグが生まれている。
つまり、高校や大学を卒業しても、さらにレベルアップを図れる上位のステージ(プロリーグや社会人リーグなど)がしっかりと用意されるようになった。だから、社会人は強くなり、また学生に負けるわけにはいかなくなったのだ。
これは、スポーツ界全体を眺めれば、歓迎されるべきことだろう。
ただ、ここで奮起を促しておきたいのは、学生スポーツをもっともっと盛んにすることに知恵を出し合っていかなければいけないということだ。
今でも人気の学生スポーツはたくさんある。
正月に迫った箱根駅伝などは、最たるものだ。関東の大学しか参加できないことへの問題提起もあるが、学生スポーツだからこその魅力がある。野球の早慶戦やラグビーの早明戦などもそうだろう。かつては神宮球場に徹夜の列ができたり、満員の国立競技場で両校の選手が戦っていたりした。どちらも、もちろん今でも大人気の対抗戦だが…。
学生スポーツは、もっと人気があってもおかしくないし、活動費や環境整備に使える資金を稼げるはずなのだ。
そうした学生スポーツの人気と環境を向上させるためにスタートしたUNIVAS(ユニバス)もまだまだ動き出したばかりだ(2019年3月創設)。
メジャー、マイナーを問わず、学生たちが生き生きと学生スポーツに興じている姿が、日本の健康を生み、次の世代を育てていく環境になると言っても決してオーバーではないだろう。
五輪のメダルの数も目標としては大事だが、それ以上に大切なことは、サステナブルなスポーツ環境を学生たちに用意することだ。そうすれば、競技人口も増し、強い選手が現れるのも自然の理といえるだろう。
東都大学野球が、来年の春のリーグ戦の開幕カードを大分県で開催すると発表した。
4月2日(土)、3日(日)に東都の選手が「別大興産スタジアム」で戦うのだ。
素晴らしいアイデアだと思う。
学生スポーツをデリバリーする。
こうした工夫が、いろいろなスポーツでもできるはずだ。
「学生対社会人」は消えても「学生対学生」の魅力を高める。
学生スポーツの伸びしろは、まだまだあるはずだ。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。