令和の断面

【令和の断面】vol.96「ビッグボスはただの道化か?」

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    「ビッグボスはただの道化か?」

     ビッグボスの快進撃が止まらない。
     北海道日本ハムファイターズの監督就任以来、「ビッグボス」こと新庄剛志新監督の言動が連日メディアを賑わせ続けている。
     ファン感謝デーにスーパーカーで登場したり、新入団選手に向かって「コーチの言うことを聞かないように」とびっくり発言をしたり、チームマネジメントについて奇想天外なアイデアを連発したり…、野球界の話題を独り占めしている。

     来春のオープン戦初戦は、「選手に監督を任せたい」とツイッターでつぶやいていたが、どうやらこの構想を本当に実践するようだ。
     「オープン戦初戦の試合を上沢監督でオーダーを組んでもらい戦ってもらいます」
     と、自身のツイッターで改めて公言した。
     上沢とは、主戦投手の上沢直之のことだ。

     その狙いをひと言でいえば、選手たちに戦うチームの一員として「当事者意識」を強く持ってもらいたいということなのだろう。チームのオーダーを考えることは、自分以外にどんな選手がいて、どんな役割を果たしているのかを知ることになる。もっと言えば、どうすれば勝てるようになるのかを選手たちに考えさせることになる。
     一見、こうしたことは、ファンサービスやメディアに対しての話題作りのように思えるが、実はしっかりとした狙いを持っている。

     私が一番感心したのは、新人の選手に向かって「コーチの意見は聞くな!」と訓示していることだ。それは「1年目は」という期間限定の発言だが「実力で、この世界に入って来た。まずは自分のパフォーマンスを思いっきり出して」とアドバイスしている。
     これは、実に的を射た大事な助言だと思う。

     コーチの指導に意味がないということではない。
     ただ、コーチの意見は選手にとって重いのだ。
     だから、何か言われれば、多くの場合、その意見を聞かない訳にはいかない。
     しかし、自分の考え方やスタイルを思い出す前にそうした意見を取り入れてしまうと、本来の自分がどんな選手だったのかがわからなくなってしまうことがあるのだ。

     これは野球だけではなくて、あらゆることに通じる話かもしれない。
     まずは、自分でやってみて、本来のスタイルを知る。
     その上で、問題や課題が見つかったら、自分で解決する。それでもうまくいかなくなったら、そこでコーチの助言を仰ぐ。
     このプロセスを踏まないと、自分がわからなくなって、本来の良さが消えてしまうのだ。
     プロ野球で、せっかくの才能が開花しなかったり、伸び悩んでしまったりするのは、こうしたことに原因があることをビッグボスは見抜いているのだ。
     コーチ陣にも安易に指導しないようにと伝えているというから、ただの思い付きではない。

     この他にも、選手のインタビューに対する注文や、ファンションにまで言及している。
     それもこれも、選手に自立を促し、プロ野球選手としての競争力を高め、強い自覚と闘争心を持ってもらうためだ。

     ビッグボスの言動やプランは、チャラチャラしていて道化のようにも映るが、それは彼が計算づくでメディア受けするように演出しているからだ。
     その本質は、「プロ野球選手はどうあるべきか」という信念から始まっている。
     もちろん、そのやり方に好き嫌いはあるだろうが、ビッグボスは決しておちゃらけたお騒がせ男ではない。

     現時点では、やることなすことに唸らされるばかりだ。

    青島 健太 Aoshima Kenta

    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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