「渋野日向子の大逆転には理由がある」
衆議院選挙の投票日となった10月31日(日)は、全国の選挙区で悲喜交々のドラマがあったが、この日の女子プロゴルフも見ごたえたっぷりの大熱戦となった。
樋口久子・三菱電機レディース、最終日(埼玉・武蔵丘GC)。
2日目を終えて7アンダーで並んだ韓国のペ・ソンウ選手と渋野日向子選手が最終組で回った。1番2番とバーディー発進した渋野だったが、4番5番でボギーを叩き、アウト(前半)を終わってペに1打リードされる。イン(後半)に入ってペが17番でバーディーを奪った時点で渋野との差は「2打」になった。
残るはパー5の18番のみ。ここまで堅実なゴルフを続けていたペの調子を考えると、2打差は十分なリードに思われた。
ところがここからドラマが始まる。
パー5で2オンに成功した渋野は、7メートルのイーグルパットこそ外したが難なくバーディーを奪いペにプレッシャーをかける。
渋野は「17番でソンウさんがバーディーを取った時点でギアを入れた。イーグルを取るしかないと思っていた」と攻撃的な気持ちを明かした。
そんな渋野の姿勢に気圧されたのか、ペが1メートルのパーパットを外し二人が9アンダーで再び並んだ。優勝を意識する(守ろうとする)と、プロでも短いパットが打ち切れなくなるのだ。
迎えたプレーオフも、同じ18番パー5で争われた。
2打目でともに2オン狙ったが、渋野の打球はピンにまっすぐ向かい、バンカー脇の土手に当たったおかげで勢いがなくなり、丁度よい転がりでピンに絡んだ。
一方のペも2オンに成功したが、長いイーグルパットを決めることはできなかった。
それを見た渋野は、3メートルのイーグルパットを思い切りよく打つ。そのボールがカップの真ん中から入って、今季2勝目を逆転優勝で決めた。
今シーズンの渋野は「面白いゴルフ」を目指しているそうだ。
6月の全米女子プロ選手権でギャラリーに「面白いゴルフをしてくれてありがとう」と声を掛けられたのがきっかけだと言う。上がり2ホールのバーディー、イーグルで予選落ちを免れた時のことだった。以来、ファンに楽しんでもらえるゴルフをしたいと思っているそうだ。
その「面白いゴルフ」というコンセプトを聞いて、最終日の驚異的な粘りの秘密がわかったような気がした。
一流選手でも「勝とう」とした途端に簡単なプレーが難しくなる。ペの18番のボギーがその見本だ。身体が固くなって動かなくなる。
一方の渋野は、「面白いゴルフ」をしようとしている。
ペを追いかける渋野にとって、勝つためには攻撃的なゴルフをするしかないのだが、それを「勝つために」ではなく「面白いゴルフ」をするという「設定」にすることに意味(効果)があるのだろう。
勝ちたい気持ちを抑えて、伸び伸びと攻撃的にプレーする。
それが「面白いゴルフ」の真意なのだと思う。
こうした大逆転は、往々にしてこうしたメンタリティーで引き起こされるものだ。
この試合を含めて渋野がプレーオフを3戦全勝しているのは、プレーオフになると彼女の内面がそれまで以上に「攻撃的になる」=「面白いゴルフをしよう」というモードになるからではないだろうか。
去年からスイング改造に取り組んでいる渋野だが、「面白いゴルフ」を目指せるようになったのも、そのスイングが自分の思い通りになってきたからだ。
12月には、米ツアーの予選会に挑戦する。
これからの彼女が目指すのは、世界中のギャラリーを喜ばすことだ。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。