「長友や大迫のJリーグ復帰について」
Jリーグが活況(9月19日現在)を呈している。
首位を走る川崎Fを僅差(勝ち点4)で追いかける横浜。優勝争いからは少し遅れを取っているが、セカンドグループの名古屋、神戸、鳥栖、浦和、鹿島が横一線で団子状態。 見ごたえのある戦いが続いている。こうした熱戦の原動力となり、サポーターの関心を引き付けているのは、海外からの帰国選手たちだろう。
9月18日の東京対横浜FC戦(味の素スタジアム)には、11年ぶりに長友佑都選手(35歳)が古巣の東京に復帰し、サイドバック(SB)で出場した。冷たい雨もものともせずに慣れ親しんだ左サイドを縦横無尽に動き回り、4対0の快勝に貢献した。
長谷川健太監督も「長友の存在でぐっと勢いが出た。いつでも太陽のような選手」と彼の合流を歓迎した。
この日は、名古屋の豊田スタジアムに宮市亮選手(28歳)の姿もあった。愛知県の中京大中京高校から直接ヨーロッパに渡りプレーを続けた。快速ウイングとして日本代表としても期待されたが、両ひざの靱帯を断裂するなどケガに苦しんできた。それでも諦めることなく海外でプレー(約10年間)を続け、この夏から横浜に加入し、この日の名古屋戦がJリーグデビューとなった。
この他にも、日本代表で活躍するビッグネームが、今夏、Jリーグへの復帰を果たしている。神戸でプレーする大迫勇也選手(31歳)や浦和に入団した酒井宏樹選手(31歳)などだ。大迫も酒井も、長友同様に長い間ヨーロッパを主戦場にしてきたが、タイミングを計ったかのように、同じ時期に日本に帰ってきた。
ヨーロッパのビッグクラブでプレーをしてきた選手たちを、しかもバリバリの日本代表の国内復帰を、サポーターも興奮をもって迎えたことだろうが、その気持ちはよくわかる。
スター選手を間近で見られる、しかも心強い助っ人の復帰だ。
場合によっては、対戦相手のサポーターも彼らのプレーを楽しみにしていることだろう。
これは、Jリーグのビジネス的にも歓迎すべきことだ。
ただ、こうした人気選手のJリーグ復帰を手放しで喜んでいてはいけない、と、筆者は冷めた目で見ていたりする。
彼らの復帰は、Jリーグを盛り上げたいという純粋なものだろうし、来年に迫ったW杯に向けて、コンディションが整えやすい日本国内にいたいという狙いもあるのだろう。またヨーロッパでのこれまでの実績が、Jリーグ各クラブと魅力的な契約を生んでいるのも確かだろう。加えてコロナ禍での健康不安も手伝っているのかもしれない。同行する家族のことを考えれば、日本は安心安全な環境と言えるだろう。
だから、こうした復帰に異を唱えるつもりは毛頭ない。
私は、大迫や長友、酒井の熱いプレーが大好きだ。
ただ、冷静に考えれば、ヨーロッパ市場における彼らの評価が、以前とは違ってきているのは確かだろう。彼らも、もう30歳を超えている。
海外でプレーを続けるには、相当なエネルギーがいる。
サッカーのレベルの高さはもちろん、言葉や文化、生活においてのストレスも容赦なく襲いかかってくる。そうした環境の中でプレーし続けてきたから、彼らは大きな成長を遂げたのだ。だから、そこから帰ってくる日本は、やはりプレーしやすいところだろう。
まず、なにより彼らに対するリスペクト(好意的)がある。
相手選手も、露骨に削ってきたりすることもないだろう。
もっと言えば、彼らに優しいピッチなのだ。
私が心配するのは、その点だ。
東京に復帰した長友が言った。
「東京を世界レベルにもっていきたい」
そう、長友がこれまでプレーしてきたクラブ(10年チェゼーナ、10年インテル・ミラノ、17年ガラタサライ、20年マルセイユ)に比べれば、やはりJリーグは格下の存在なのだ。
始まったW杯アジア最終予選で厳しいスタートを切った日本代表。
初戦のオマーンに敗れ(0-1)、中国には勝った(1-0)ものの、これからいよいよ過酷な戦いが待っている。
帰国組のビッグネームに頼りすぎるのは危険だ。
いろいろな意味で、彼らはもう満たされている。
あるいは、やり遂げてきた、と言うべきか。
局面を変えるのは、新しい時代をつくるのは、いつも若くてハングリーな選手たちだ。
その意味で、Jリーグも、日本代表も、実績十分な選手よりも、飢えた若い選手たちに期待したい…と思っている。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。