「なぜこのタイミングで粘着物質を取り締まるのか」
大谷翔平23号、6戦6発のホームラン。
そんな見出しがスポーツ新聞を飾り、出場が予定されているオールスターゲームのホームラン競争にも期待が高まるばかりだ。
大谷本人も「出るからには、優勝を狙いたい」と意気込みを語り、彼のバッティングに対する関心は日米で高まるばかりだが、そんな中で大リーグの投手たちに激震が走っている。
二刀流の大谷にも、投打において他人事ではない。
大リーグは、6月21日(日本時間22日)から、投手に不正使用が疑われる粘着物質の取り締まりを強化すると発表した。
以前から、大リーグでは投手が何らかの滑り止めを使うことが黙認されていて、多くの投手(ほとんどの…と言ってもいいのかもしれない)は、それぞれに工夫をして自分なりの滑り止めを使っていた。それは、公然の秘密だったのだ。
この件に関しては、元大リーガーの上原浩治氏も佐々木主浩氏も、現役時代に使っていたことを公表している(6月22日付け、日刊スポーツ)。
製法は、シェービングクリームや日焼け止めなどを混ぜるそうだ。
筆者も、元ヤンキースの井川慶氏から直接聞いたことがある。
井川氏は、「球団から数種類の滑り止めを紹介されたが、どれも自分に合わなかった」とYouTubeで現役時代のエピソードを語っている。
数年前には、マリナーズの菊池雄星投手の使用が問題になった。しかし、これにクレームをつけた相手チームも、自軍の投手が似たようなものを使っているからだろう、大きな問題になることなく、なんとなくこの騒動は消えていった。
要するに、どこのチームでも、多くの投手が滑り止めを使っているのだ。
それが突然、しかもシーズン中にもかかわらず、急に取り締りを強めるのはどうしてなのか?
今シーズンの大リーグは、ここまで全体の打率が2割3分台(日刊スポーツ)だそうだ。
おそらく「投高打低」の現状を変えて、もっと打てるゲーム、観戦して楽しい打撃戦を目指そうという意図なのではないかと思う。
今、大リーグで流行っている「スパイダータック」(接着剤に近い粘着力があると言われている)や粘着力の強い「松ヤニ」を使うと、指先のグリップ力が増して、投球の回転数がアップするらしい。その分、ストレートのスピードは増し、変化球の変化も大きくなる。
大リーグ機構は、それが「投高打低」の要因だと判断したのだろう。
この取り締り強化に対して、打者からは概ね歓迎の声が上がっているが、投手たちの反応は深刻だ。
「ロジンバッグは役にたたない。どうやって滑りを止めたらよいのか」
「回転数がピッチングのすべてではない。話し合って決めるべきだ」
「投げ方を変えなければならない」
「変化球が変化しない」
「肘や肩を故障する」
「四球や死球が増えるだろう」
今シーズンも好調なダルビッシュ投手は、「滑りやすい(アメリカの)ボールを変える方が先決だろう」とこの件に関して憤慨している。
シーズンが始まってからの変更は、前代未聞だ。
それだけ、見過ごせない「粘着物質」が横行しているということか?
ピッチャーは、イニング前に検査を受ける。グラブや帽子、ベルトやユニホームも調べられることになる。違反者には退場処分と10試合の出場停止が課せられるというから、かなり厳しい罰則だ。
大谷のホームランも気になるが、相手投手の手元が滑ってデッドボールなんてことがないことを祈るばかりだ。
しばらくは、投手たちの投球内容に注目だ。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。