「大谷翔平にあえて注文をつけるならば…」
それは、大谷翔平の夢が叶った瞬間と言えるだろう。
メジャーリーグに渡って5年。
2番ピッチャー大谷。
ついに「リアル二刀流」が実現した。
アメリカ時間4月4日(日本時間5日)。
開幕カードとなったロサンゼルス・エンゼルス対シカゴ・ホワイトソックスの第4戦、大谷翔平は先発ピッチャーとして1回表のマウンドに立つと1番アンダーソンをセカンドゴロ、2番イートンを空振りの三振、3番アブレイユを四球で歩かしたものの、4番モンカダをショートゴロに打ち取り、上々のスタートを切った。
その裏、2番で打席に入った大谷は、初球の真ん中高めを見逃さず、豪快にスイング。右中間スタンドに飛び込む特大のホームランを叩き込み、あっという間に「リアル二刀流」の存在価値とその魅力を全米中の野球ファン(もちろん日本のファンにも…)にアピールした。
この歴史的な起用を敢行したジョー・マドン監督も、大谷がいきなり出した「答え」に大満足だったことだろう。
エンゼルスが大谷の投打の活躍で4回までに3対0とリードしていたが、5回表にヒットと2つの四球で満塁のピンチを迎え、2アウトから同点に追いつかれたのは余計だった。最後の打者(4番モンカダ)も三振に仕留めておきながら、そのボールをキャッチャーが後逸して振り逃げ、1塁への送球と1塁からホームへの送球が乱れて一挙に3失点。そこだけは、草野球のようなドタバタ劇になってしまった。
ホームに滑り込んだアブレイユにベースカバーに入った大谷が足をすくわれて転倒するシーンがあったが、大事に至らなくて本当によかった。
ここで大谷は、交代。
初の「リアル二刀流」は、4回2/3(球数92球)を投げて、被安打2、7奪三振、5四球、3失点(自責点1)、打撃では3打数1安打、1ホームランと、これからに十分に期待が持てる内容で終わった。
この結果を受けて、もちろん日米のメディアは大谷を絶賛しているが、本稿ではもう喜ぶのはやめて、これからのことを指摘しておこう。
この日の大谷は、とにかく楽しそうに野球をやっていた。
それはそうだろう。メジャーリーグでの「リアル二刀流」を目指して、これまで頑張ってきたのだ。これはそんな大谷へのプレゼントのような試合だ。だから彼が投打に躍動するのは、見ていても本当にうれしいことだ。
しかし、これからはこれをコンスタントに続けていかなければならない。まず重要になるのは、ローテーションを守って投手としての安定感を見せることだろう。5回のドタバタ劇は、2つの四球がからんでのことだ。これからもっと長いイニングを投げるためには、簡単に打たせて取る配球が必要になってくるだろう。
またこの日はアクシデントもあって途中で交代したため、投手だけで終わってしまったが、DH制を使わない選手起用をしているため、ピッチャーの後は外野の守備につくことが想定される。そうなれば野手としての守備力が問われることはもちろん、そのまま試合に出続けるためには打撃の好調さもアピールしなければならない。
つまり投げない時も打者としてしっかりと結果を出すことが求められる。
そのバランスが崩れると、投手中心か打者中心か、という起用になりかねない。
もちろん筆者が大谷にアドバイスするような立場にないことは百も承知だ。その力の配分も、スタミナのコントロールも、彼だけが知る喜びであり悩みでもあるだろう。だから誰も彼にアドバイスなんかできない。
ただ、これからも「リアル二刀流」が見たいから思ってしまうのだ。
もっと力を抜いて淡々と投げて欲しい…と。
ホワイトソックス戦のテンションでは、壊れてしまうのではないか…と。
だからこそ、あえて言いたい。
大谷翔平よ、遊びながらもっとのんびりプレーしてくれ!
君がすごいのは、アメリカのファンも、もう十分に分かったから!
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。