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vol.62 ”世界一”奪還なるか、WBCへの期待と不安

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    存続が危ぶまれていたWBCは「次回」もある!?

     3月6日から、第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が始まる。B組の日本は、初戦は3月7日、強豪・キューバを相手にスタートを切る。
     B組は他にオーストラリア、中国が“同居”し、日本にとっても第1ステージを突破するのも、一般に言われているほど、簡単にはいかないのではないかと、危惧をしている。

     毎回毎回、「今回限り」をうわさされ、存続を危ぶまれてきたWBCだが、ここ数年は今度こそ、それが本当のことになるのではないかと言われていたのだが、昨年末あたりから風向きが変わってきた。一部報道で、MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏が「私の代でWBCを終わらせることはしない」と発言があったと報じられ、急転、WBCは存続の方向へ動き出したというのだ。
     第1回、第2回とWBCを連覇した日本にとっては、“栄光の歴史”が、ともすれば、埋没してしまう危険がなくなったわけで、悪い知らせでないことは確かだ。

     何より、小久保監督率いる日本代表チームを筆頭に、各世代のジュニアチームを結成し、「侍ジャパン」を、2020年の東京五輪を含め、将来的にも確かなものにしていこうと動き出している野球界にとっては、胸をなでおろしているところではないと察する。

    日本にとって”忘れられない男”の引退報道

     ところで、第1回からWBCを見てきたものにとっては、忘れられない「一人の男」の引退が、このたび明らかになった。
     ボブ・デービッドソン――。日本―米国戦で犠牲フライで生還した西岡剛の離塁が早いと、一旦出たセーフの判定を、米国チームからの抗議を受け、オーバーコールにて「アウト」にしてしまったあの審判である。西岡が正しく離塁していたのは、ビデオにて確認されており、明らかな誤審のせいで、日本チームは敗戦。決勝進出の夢があわや消え去るところでもあった。
     次戦でメキシコが米国に勝ったことで、日本は決勝に進出し、念願だった優勝をつかむことになるのだが、そのまま敗退となってしまっていたら、日本にとっては泣くに泣けない誤審となるところだったのである。
     そもそも米国の試合に米国の審判が起用されるなど、その運営にも疑問が残るのだが、そんなことも含めて、結構ばたばたとした中で進んでいたWBCだったのである。

     ところで、デービッドソン氏があの試合の球審を務めていたことそのものに疑問を感じている人は今では少ないかもしれないが、実はあの時のデービッドソン氏は、メジャー・リーグの審判員ではなかったことを覚えていられる方はどれほどおられるだろうか。
     元MLBの審判だったデービッドソン氏は、判定など諸問題があって当時、3Aに“降格”していたのだ。
     実は第1回WBCが行なわれていた時、MLBの審判員はストライキが行われており、WBCに参加していない。そのため、3A級の審判に声をかけ、大会を運営した。その中に科のデービッドソン氏がいたのである。さらに言えば、元MLBの審判という肩書があったので、大事な試合の球審などの要職が彼に回ってきたともいえる。
     そのあたりの事情を知っている関係者にとっては、デービッドソン氏の降格は、なるほど、こういうことなのかと、冷めた目で“誤審”を見ていたに違いない。
     結果的には、日本は優勝に輝き、今ではそれも笑い話となってしまったが、当事者となった方には、こういう国際大会では何が起こるかわからないという、ある意味では”教訓”となったという人もいる。

     さて、今回のWBC。メジャー・リーガーの出場は青木宣親(アストロズ)のみ。目玉選手の一人だった大谷翔平(北海道日本ハム)の欠場など、日本にとっては苦しい状況下での大会になるというのは間違いない。
     そもそも、監督経験がない小久保裕紀氏を監督に起用するなど、個人的には不安の大きい中で迎える第4回WBC。それでも日本代表が3月の日本球界に朗報をもたらせてくれることを期待して、応援を送りたいと思っている。

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