「PK戦で見た連鎖反応の怖さ」
サッカーシーズンの開幕を告げる富士ゼロックス・スーパー杯2020は、「これが令和のサッカーか」と言いたくなるスペクタルなゲームだった。
去年のJリーグを制した横浜Mと令和最初の天皇杯覇者・神戸との対戦。
両チームとも華麗な攻撃を持ち味にしているが、その特徴がぶつかり合った。
横浜Mは、短いパスをワンタッチでつなぎ縦横無尽に攻めてくる。ディフェンダーが機を見て上がれば、サイドにいるプレーヤーもどんどん中に入ってくる。一旦攻撃が始まると怒涛の攻めが止まらない。
一方の神戸は、元バルセロナの選手を3人擁し、優雅で想像力に富んだサッカーを展開する。その中心は、何と言ってもイニエスタ。彼にボールが収まると攻撃のスイッチが一気に入る。イニエスタからのパスが、一瞬のうちにチャンスを作る。
ゲームを終始リードしたのは、神戸だった。しかし、横浜Mも負けていない。
神戸が先制すれば横浜Mがすぐに追いついて、神戸が2点目を取れば、またすぐに横浜Mが同点にした。そして神戸が3点目を奪いこれで決まったかと思えば、それでも横浜Mも3点目を取って、まったく譲ることがなかった。
90分を戦って3対3の同点。
ここまでは素晴らしい打ち合いだった。
ところが優勝チームを決めるPK戦で予想もしないことが起こった。
なんと9人が連続してPKを外したのだ。
あれだけ面白いように点を取り合った試合とは正反対に両チームの選手がまったくPKを決めることができないのだ。
先行の横浜Mのチアゴが決めると続く神戸のイニエスタも難なく決めた。
2番目の扇原が決めれば、田中も入れた。
ところがここからは見るも無残な状況が続く。
エジガル・ジュニオがゴールキーパにセーブされると、小川がポストに当てる。
横浜Mは、続く水沼、松原、和田、遠藤の合計5人が決められず、神戸も西、大崎、フェルマーレンと4人が連続で天を仰いだ。
いったい何が起こったのか?
これはもう連鎖反応以外の何物でもないだろう。
日本を代表するJリーガーが次々とPKを外す。高校生の試合でも、こんなに連続してPKが決まらないシーンを見たことがない。
おそらくキッカーには、ネガティブなイメージがどんどん増幅されていったのだろう。
「外したらどうしよう?」
そのマイナスの思考が、いつものプレーを阻害する。
普通に蹴れば、10本中9本は決める人たちだ。
それができなくなる。
PK戦を見ていて感じたのは、外した選手たちがみんな同じようなペース(時間間隔)でボールを置いて、同じような間合い(助走)で蹴っていたことだ。誰もその時間や雰囲気を壊そうとせず、同じ流れの中でボールを蹴り続けた。
おそらくその自覚が持てないことが、連鎖反応そのものの正体なのだろう…。
こうした流れを壊す手段は、いつも原始的なことであり生理的なことだ。
・時間の流れを止める
・深呼吸をする
・大きな声を出す
・ストレッチなどで身体を柔らかくする
・違うことをイメージして、頭を切り替える
令和を代表するような試合を見た後に、100年前から変わらないスポーツの本質を見た。どんなに優れた選手たちも、そのプレーは心の持ち方ひとつで、スーパープレーを生んだり、凡プレーを連発したりするのだ。
連鎖反応が続いたPK戦は、14人目の山口蛍が決めて神戸が優勝した。
青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。