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vol.44 球界の「クライマックス」に水を差す、巨人選手の野球賭博関与

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    ハッピーエンドを楽しみにしていたファンに届いたアンハッピーなニュース


     プロ野球のレギュラーシーズンも残されているのはあと数試合。個人タイトルの行方もそうだが、なにより、雨天のお蔭で最終戦に変更された広島―中日戦の行方が気になる。山本昌の引退登板をハッピーに見送ってあげようとのんびり構えていたら、カープにとって、クライマックスシリーズへの出場をかけた大一番になってしまった。
     そんな、いかにも野球ファンらしいことを考えていたら、6日、飛び込んできたのは、日本野球界を揺るがす“大事件”だった。
     報道にもあるように、巨人の福田聡志投手が野球賭博に関与していたと球団から発表された。
    知人との間で高校野球の甲子園大会への賭けから始まって、負けを取り戻すためにプロ野球、メジャー・リーグの試合を対象に賭けをしていたのだという。そこには自身が所属す巨人の試合も数試合含まれていたのだとも。さらに、その知人を紹介したのが同僚の笠原将生投手で、両投手は現在、球団から謹慎を言い渡されている。
     5日、巨人の久保博球団社長が東京・大手町の読売新聞本社で記者会見し、「プロ野球の信用、信頼を失墜させる行為を犯したことに関しまして、深くお詫び申し上げます」と頭を下げた。
     その知人男性が、福田投手の賭け金の取り立てに来たことで“事件”は発覚。球団によれば、甲子園大会から始まって、わずか1カ月の間に賭けで百数十万円の損になっていたのだという。
     そもそも、法的にも賭けが許されているわけではないが、少なくとも賭けで生じた損を返さずに、その知人男性からのメールも無視していたということだから、誤解を恐れずに言うと、法的にはもちろんだが、(それが法的に認められて「いる・いない」に関わらず)一ギャンブラーとしても、最低の行為だ。事実だとすれば、同情の余地すらもない。

    ファンを震撼させた「黒い霧」の教訓はなかったのか

     球団は野球協約に抵触している疑いがあるとして、コミッショナーに告発。刑法の賭博罪に当たる疑いもあり、警察への届け出も検討しているというが、当然だろう。
     野球賭博と聞くと、私くらいの年齢、あるいは上の方にとっては、1969年に発覚した「黒い霧」事件が思い起こされるだろう。野球賭博に絡んだ八百長行為に関与したということで、西鉄ライオンズの選手6人が処分を受け、その中心となった永易将之投手、さらには当時の西鉄のエースだった池永正明投手らが永久追放となった(のちに池永投手は処分が取り消され復権)。
     さらには、オートレースの八百長に関与したとして、小川健太郎投手(中日)、森安敏明投手(東映)などが、永久追放となった。球界浄化の波が一気に流れたのだ。
     メジャー・リーグにおいての「ブラックソックス事件(映画『フィールド・オブ・ドリームズ』などでご存知の方も多いのでは)」、日本球界における「黒い霧事件」。野球界の「闇」の部分が、白日の下にさらされた大事件であった。
     あえて、「私たちより上の世代」と先に書いた。それは、今の若い選手、ファンの方々に黒い霧事件が、ある意味『教訓』として残っているはずだと思っていたのだが、時の流れとともに、その教訓は薄れてしまったのかと危惧しているからだ。

     ファンを裏切る行為は、そのまま野球ファンから見放される恐れもある。近年、野球人気の衰退が叫ばれていたが、女性ファンの開拓や、さまざまなイベント企画などが実を結び、球場へ詰めかけるファンは、テレビの視聴率とは反比例するかのように増加に転じている。それらの努力すらも無にしかねない行為と言われても仕方がない。
     福田投手は、今シーズン一軍での登板がなく、自らが八百長行為にかかわったということにはなるまいが、野球協約第177条1項6号「所属球団が直接関与する試合について賭けをすること」に抵触する恐れがあり、その場合は永久失格処分となる。さらに、この知人が野球賭博の常習者と認められた場合は、第180条1項1号により、1年間ないし、無期の失格処分となる。どちらにしても、選手として将来が失われる恐れのある相当な処分になるに違いない。
     クライマックスシリーズを控え、まさに「クライマックス」を迎える日本プロ野球に影を落とした大事件。深く頭を下げた久保社長は、会見の席で報道陣から、そのクライマックスシリーズへの出場辞退を問われると「現時点では考えていない」と答えたが、裏を返せば、そういう話が出てくるのも不思議ではないほどの大事件なのだと思う。
     東京五輪での正式競技採用の候補として名前が残った「野球」だが、この種の賭博行為に関して、IOCは嫌悪感を抱いており、野球の五輪復活に関しても、決して好ましい話題とならないことは明らかで、ことは巨人、あるいは日本プロ野球だけの問題で終わらないことも頭に入れておかねばならない。
     魔がさした、では済まない事態であることは明らか。福田投手、笠原投手は今、何を考えているのだろうか。犯してしまった過ちは、取り返しのつかない事態になろうとしている。

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