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vol.36 セに“貯金ナシ⁉︎”。「珍現象」にちょっと心配な交流戦の行方

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    パ優位の交流戦、過去11年間でセはわずかに“1勝”


     プロ野球は交流戦で、いつものように? パ・リーグのチームが圧勝したため、おかしな現象が起きてしまっている。なんと、セ・リーグのチームの“貯金”がなくなってしまったのだ。
     交流戦が終了した時点で唯一、今シーズンの通算成績で勝ち越していた巨人が、中日との3連戦に1勝2敗、横浜DeNAとの緒戦で連敗ストッパーとなる1勝を献上して、ついに勝率5割。2位にいた阪神と同率で首位ではあるが、勝ち越しがないということには変わりがない。
     6月23日現在、セ・リーグに“貯金”がなくなってしまったのである。
    前記したように、そもそもこうなってしまったのは、交流戦の成績が影響している。
     セ・リーグとパ・リーグの通算成績は44勝61敗と、セ・リーグは、大きく負け越した。
     今年は交流戦に入る前から混戦模様だったセ・リーグだが、健闘していた横浜DeNAは、交流戦の終盤に10連敗を喫するなど大きく貯金を減らし、ついには5割をきり、巨人も負け越した。
     セ・リーグのチームで5割をキープしたのが下位に沈んでいた阪神と広島の2チームだけで、それも阪神の10勝8敗で2つの勝ち越しあっただけなので(それでも交流戦の順位は6位)、この数字はやむを得ないという感じだろう。

     2005年から始まった日本のプロ野球交流戦は、試合数であったり、試合の方式であったり、いろいろ試行錯誤を繰り返しながら続いてきた。今年は、各チームとの対戦を3試合に減らし、開催球場については、これまでのようにホームとビジターで同数の試合数をこなすというのではなく、今年と来年の2年間でホームとビジターでの対戦を交互に行うというスタイルに変えた。つまり、今年ビジターで戦った相手とは来年ホームで戦うということである。総試合数は昨年の144試合から108試合に減ったのである。
     過去10年間の交流戦の成績は、09年に唯一、セが70勝67敗7分と3勝上回っているが、それ以外はいずれもパの勝利がセを上回っている。とはいっても、その09年までは成績は拮抗しており、初年度の05年がセが104勝−パが105勝(7分)と勝ち越しはわずかに1つ。翌年もセが107勝―パが108勝(1分)とパの勝ち越しは1つだけだった。
     ところが、2010年から状況は大きく変わる。10年はセ59勝―パ81勝(4分)、セ57勝―パ78勝(9分)とパに20勝以上の勝ち越しを献上するのである。
     その格差の理由を評論家諸氏は「投手力の差」を上げる人が多かった。たしかに、当時のWBCや五輪に出場した日本代表チームの投手陣の構成が、ほとんどがパ・リーグの投手でセはわずか1、2人ということもあった。また、その強力な投手に普段から対することによって、打力の方も知らぬ間に力を上げて、結局は攻撃力、投手力ともにパがセを上回るようになったのだ、という見方が大半なのだ。
     私もそのあたりの見方に対して、特に反論を唱えるつもりもないが、当たっているようでもあり、当たっていないようでもあり、となかなか結論付けるのは難しい。
     ただ、日本シリーズにおいても、この10年はセが3勝(07年中日、09年、12年巨人)に終わっていることを考えると、パ優位の流れは隠しようのないことのような気がする。
     だからと言って解決策、特効薬があるわけではないのが、それはそれで寂しいことではあるが。

    MLBでは、こんなことも珍しいことではなかった

     このリーグの“貯金なし”という状況は、日本では交流戦が始まって以降しか起きるはずのない現象である4が、MLBでは、しばしばそういうケースがあった。それというのも、MLBは、アメリカン・リーグ、ナショナル・リーグともに、現在は「東・中・西」と3地区に分かれて行っている。試合数は同地区に比べ他地区との対戦が少なくなっているが、それでも地区間の強弱の差が結構出ることもあった。
    例えばア・リーグは東地区に田中が所属するヤンキース、上原が所属するレッドソックスなど、伝統チームを有することもあって、競争が激化、長くリーグ一のレベルの高い地区と言われてきた。

    さらに西地区では新興のエンゼルスやアスレチックスなどが台頭してきたこともあって、やはり同様に高いレベルを誇った時期がある。その中で、昨年ワールドシリーズに出場したロイヤルズが所属する中地区は停滞し、時に5割をほんの数勝上回っただけで地区優勝となることも珍しくない時代があったのだ。その際にシーズン中のある時期には、中地区に所属する全チームが5割以下ということが普通に起きていた。
    もちろん、このところの中地区の巻き返しは激しく、前記したロイヤルズやタイガースなどが高い勝率を誇るようになり、地区内のチームがすべて5割以下という現象は起きていない。
    望むことは、こんなことで交流戦をなくそうという動きにならないように、ということ。それでなくても試合数を年々減らしている現状を思うと、いずれ、誰かが「交流戦は意味がない」などを言い出しかねないという不安があるからなのである。

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