先週、千葉県市川市にある新浜鴨場で、伝統的な宮中鴨猟を体験させてもらった。その鴨の捕らえ方があまりにも見事なので、ここでご紹介しておこう。
この鴨場は宮内庁が管理する場所なので、許可なく簡単に入るわけにはいかないが、ご招待をいただいて有難く参加させていただいた。
まずは鴨場の全体像だが、中央に野球のグラウンドほどの池があって、そこから放射上に幅1メートルほどの水路が20本くらい作られている。
この水路を使って鴨を捕るのだが、その方法が巧というか、斬新というか、知恵に溢れているのだ。
まずこの鴨猟の主役は、人間ではなくアヒルだ。
その池で飼いならされたたくさんのアヒルたちは、日ごろから木の板を打ち鳴らす音を合図にエサをもらうことを学ぶ。板の音が鳴ると、アヒルたちはエサがもらえるので列を作って水路に入ってくる。そしてその水路でエサをもらう。
この習慣をアヒルたちに覚えさせるのが、猟で一番大事な要素となる。
いよいよ鴨猟である。
この時期に北方から飛来した鴨たちは、池でのんびりと羽を休めている。
その時、何処からか木の板を打ち鳴らす音が聞こえる。同じ池にいるアヒルたちが一斉に水路に向かって泳ぎ始める。
すると一緒にいた鴨たちも、つられるようにその列に加わって水路の中に入っていく。おそらく鳥たちの中に群集心理のようなものが働くのだろう。
そして鴨猟は、ここからがクライマックスだ。
アヒルと鴨が同じ水路に入ってきたら、その水路の両脇に潜んでいた人間(この時は5人ずつが両脇に並んだ)が網を持って突然現れるのだ。すると驚いた鴨が水面から飛び立とうとするのだが、そこに竿に付いた網を出して鴨を捕まえるのだ。
一方、先導役のアヒルは飛べないので、そこでエサをいつものようにのんびりと食べ続けるのだ。
この日私は、5回の猟で3羽の鴨を捕まえたが、それはまさにスポーツだった。
アヒルの特性を使って相手をおびき寄せる。
この駆け引きが、スポーツの神髄だ。
例えば、野球の投手が緩い変化球を多投して打者の意識をそちらに向ける。その意識の高まりを使って、最後はインコースのストレートで詰まらせる。
柔道や相撲の投げ技は、相手に押し込むような力を与えて、それに抗しようとする相手の力を利用して投げる。
テニスのラリーもクロスで打ち合った後に、ダウン・ザ・ラインで相手から遠いエリアにストレートを打つから追いつけないボールになる。
相手と戦うスポーツでは、必ずアヒル(おとり)を使って自分の技を決めようとする。その力学や心理戦に巧みな選手が強い選手なのだ。そしてそこに奥義がある。
まさか鴨場に行ってスポーツの原稿を書くことになるとは思わなかったが、昔からハンティングがスポーツ的であることの意味が初めて分かったような気がした。
ちなみに捕獲した鴨は、観察用の足環を付けて、すべて放鳥してきました。
ご安心ください。
令和の断面