令和の断面

vol.236 来年もパラダイムシフトが見たい

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     いきなり政治家の話で恐縮だが、日本維新の会で代表を務めていた馬場伸幸衆議院議員が代表になった時に言った。  「8番キャッチャーのような代表を目指します」  その馬場氏の慰労会の席でこの言葉を思い出した。  「8番キャッチャー」  これを聞いて、若い人たちは馬場さんの目指すスタイルが本当に分かっていたのだろうか(笑)。  そこに疑問を覚えたのだ。  ピッチャーに気持ちよく投げてもらう。そのためにキャッチャーというポジションは、ピッチャーに気を使うポジションだ。しかも一球一球立ったり座ったりを繰り返す。重労働で大変だ。そうしたことも踏まえてチームの黒子的な役割が多いキャッチャーは、一般的に足も遅いので8番を打つことが多かったのだ。  同じようなポジションにライトがあった。  「ライパチ」は、ライトで8番。草野球なら、打つのも守るのもあまり期待されない選手の定位置だった。  ところが上記2つは、もう死語と言ってもいいだろう。  近年のプロ野球で言えば、ヤクルトの古田敦也選手がキャッチャーのイメージを変えてきたし、ライパチ君を消滅させたのは、イチロー選手だ。  今やライトは、少年野球で人気のポジションになっている。  こうした野球における役割や価値観の変化を今風に言えば「パラダイムシフト」と言えるだろう。  もっともわかりやすいパラダイムシフトは、大谷翔平選手の二刀流だ。これまでのプロ野球では、投打どちらかに専念するのが普通だった。ところがこれを高いレベルでやってのける選手が現れて、今や二刀流も一つのポジションのようになっている。  また昔の野球との違いで言えば、2番打者の役割が大きく変わってしまった。これまでの2番は、クリーンアップへのつなぎ役で、送りバントや進塁打の上手な選手が起用されてきた。ところが今は、チームで攻撃能力が一番高い人が起用される打順になった。長打力があって、打率も高く、おまけに足の速い選手。その代名詞が大谷やヤンキースのアーロン・ジャッジのような選手たちだ。  この打順における変化も、野球界におけるパラダイムシフトといえるだろう。  スポーツにおいて私たちが待ち望んでいるのは、こうした今までとは違うスタイルの登場だ。  野球界が大谷なら、将棋の世界は藤井聡太棋士の登場だろう。コンピューターやAIを駆使し、これまでにない差し手をどんどん繰り出して大旋風を巻き起こしているのは周知の通りだ。  陸上競技で言えば、やり投げの北口榛花選手や中距離の田中希実選手だろうか。高校2年生の800m日本記録保持者・久保凛選手もこれから大注目の選手だ。全国高校駅伝では2区(4キロ)を走り16人抜きの快挙をやってのけている。  今年もたくさんの驚きと感動があった。  それはいずれも私たちの想像を超えるパフォーマンスだった。  これまでの既成概念や常識に縛られない選手。  彼ら彼女らが見せてくれるプレーは、楽しくて夢がある。  来年もそんなプレーをたくさん見たいと思う。  そして、そこにこそスポーツの魅力が詰まっているのだ。

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