令和の断面 Vol.229

vol.228「ドウデュースの恐ろしい末脚」

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     前日まで衆議院選挙の応援で全国を走り回っていたので、投票日の10月27日は自宅でのんびりしていた。
     テレビでいろいろな番組をザッピング。
     たまたま合わせたチャンネルは、競馬の天皇賞・秋(東京競馬場、芝2000㍍)。
     各馬のゲートインが進み、あとは大外の馬が入るのを待つばかりのタイミングだった。もちろん馬券も勝っていない。どんな馬が走るのかも知らない。なんの先入観もなく、15頭が疾走するレースを漫然と見ていた。

     実況のアナウンサーが道中各馬を紹介する。

     「先頭を走るのは、9番のホウオウビスケッツ」
     「千メートルは、59秒9、ややゆったりとしたペースになりました」

     と言うことは、先行する馬たちが遅いペースで前残りする展開だ。
     第4コーナーを回ったところで、先頭は同じくホウオウビスケッツ。しかも直線に入ってどんどん伸びていく。1馬身、2馬身、引き離してそのまま逃げ切ってしまうのかという展開だった。
     しかし、レース最後方からとんでもない化け物が虎視眈々と大逆転を狙っていることに、この時点でまだ誰も気が付いていなかった。
     残り3ハロン(約600㍍)。
     ここまで足をじっくりと貯めてきたドウデュース(武豊騎乗)が、異次元のスパートを仕掛けた。
     前を走る13頭をごぼう抜き。
     そのスピードは武豊騎手が「倍速で走っているような感じでした」と振り返るほどの超絶な加速だった。

     それはテレビ画面では、こんな感じだった。
     前を行く馬群を映していると、その手前を突然2頭(7番ドウデュ―スと4番タスティエーラ)の馬が倍速で横切っていく。今抜いていったのは何????
     そんな感じの出来事だった。

     それはそれは、恐ろしいほどの末脚だった。
     ドウデュースとタスティエーラが馬群を抜き去ったあと、さらにターボを効かせて突き抜けたのがドウデュ―スだった。

     それは競馬の醍醐味そのものだった。
     最後の最後に待っていた大どんでん返し。
     気持ちいいほどの一気差し。

     ドラマ性。
     スピード感。
     勝負のあや。
     そして、その馬の持ち味を引き出した騎手の技術。

     これぞ天下一品のレースという内容だった。

     去年(天皇賞・秋)は、レース当日に他の馬に蹴られてドウデュース(7着)への騎乗が叶わなかった武騎手。

     それだけに今年にかける思いは人一倍だった。
     「昨年は僕自身も悔しい思いをしましたし、今日は朝から気を付けていました」

     そしてレースプランに関しては「前につけるプランはまったくなかった」と最初から後位に位置し、末脚に賭けていた。

     上がり3ハロンの32秒5は、レース史上最速のスピード。しかし、その末脚を活かせたのは、「これしかない」と決め打っていた武騎手の経験とセンスがなければ、あそこまで我慢していることはできなかっただろう。
     約2分のドラマ。
     それは最上級のエンターテイメントだった。

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