【令和の断面】vol.221「デコピンの始球式」

令和の断面

 今回は「デコピン」の始球式について。
 野球ファンなら知らない人はいないと思うが、念のため何があったのかを簡単に説明しておこう。

 8月28日(日本時間29日)のドジャースタジアム。
 オリオールズを迎えての試合前の始球式。
 このマウンドに上がったのが、なんと大谷翔平選手と愛犬の「デコピン」だったのだ。(犬種は、コーイケルホンディエ)
 これまで大谷選手のXなどでも紹介されてきた「デコピン」だったが、まさか一緒に始球式に登場するとは、、、。

 大谷選手がボールを投げてそれを「デコピン」がキャッチする???
 それ以外にどんな方法があるのか???

 これからいったい何が起こるのかと思ったら、それは想像と期待をはるかに越える始球式だった。

 大谷選手がマウンドにボールを置き、「デコピン」と離れてキャッチャーのポジションに移動する。
 そしてホームベースから「デコピン」に合図を送ると、彼はそのボールをくわえて大谷選手の待つホームベースまで一直線に駆けてきたのだ。

 「ストライク!」

 大役を果たした「デコピン」に大谷選手は、ご褒美のおやつをあげると、二人は意気揚々とグラウンドを後にしたのだ。
 球場がどれだけ盛り上がったかは、言うまでもない。

 同僚のベッツ選手は「これまでメジャーリーグで見てきた中でも最高にクールな場面だった」と大谷選手と「デコピン」を絶賛した。

 さて、こうした始球式を見て改めて感じるのは、アメリカの大らかさとペットとの良好な関係である。

 かつて日本のプロ野球でも、広島のホームゲームでゴールデンリトリバーが籠をぶら下げて主審までボールを運んでいたことがあったが、残念ながら今は無くなってしまった。
 だいぶ前の話になるが、オーストラリアで試合した時は、グラウンドにたくさんの羊が放たれて試合前のセレモニーを盛り上げていたが、日本でこうしたことへの許可が出るかどうか?

 この夏、ヨーロッパに取材に行ったが、デンマークやスイスでは、地下鉄や電車、バスはもちろん、デパートをはじめどんなお店でも犬と一緒に入ることができる。もちろん犬が苦手な人もいるだろうが、社会としてペットとの共生をしっかり認めているのだ。

 少し硬い話になるが、2050年の日本は、高齢化に加え4人に1人が一人暮らしになるという。そうした社会では、ペットの存在と役割が今以上に重要になってくるだろう。

 動物と共生することで癒されたり、元気をもらったりすることが、誰にとっても大事なことになってくるはずだ。

 「デコピン」の始球式が多くの人を和ませたのは、現代社会に生きる私たちが潜在的に求めている癒しだったからだろう。

 日本ももう少しペットとの共存・共生に寛容である方が、より豊かな社会になっていく気がする。

 その意味で「デコピン」の始球式に、大事なメッセージを感じた。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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