■箸や靴べらなどの利用が増えている 考えていきたい環境問題と職人の思い
野球の取材をしていると、木製バットの使用がプロ野球、社会人、大学生だけでなく、中学生や小学生にまで広がっている。金属バットは芯でとらえなくても飛距離や打球速度が出るが、木製バットは正しいスイングを身につけ、芯でとらえないとなかなか遠くへ飛んではいかない。そのため、木製バットの需要が増えている。中学硬式のポニーリーグなどでは木製バットだけ使用する大会もできている。
使用が広がれば、それだけ折れたバットや使い物にならなくなるものも増えていく。取り組みと一緒に考えていきたいのが、環境問題への意識と、バットを作った職人の思いである。
国内では約20万本の木製バットが捨てられている。折れてしまったバットはもう捨てられるだけなのか…。持続可能な世界を描くために球界が取り組んでいる施策がある。例えば折れたグリップ部分を靴べらとして商品化していること。また箸の製造という形で再利用し、販売をしている。他にもタンブラーや楽天では伝統工芸「石巻こけし」としてアップサイクルした。(アップサイクルとは廃棄物や不用品の再利用方法。付加価値をつけた商品に生まれ変わることを目的としている)。キャンプ中などでは折れたバットをテーピングで繋ぎ、サインを入れてプレゼントをしている選手も見たことがある。
■「魂のこもったものはいつまでも長く使ってほしい」と用具担当者が代弁
以前、取材でプロ野球チームの元用具担当のスタッフに話を聞いた。「バットは大事な資源です。名人と呼ばれる作り手さんがいます。その人の思いが1本、1本に込められています。無駄にはしたくないです。折れたとしても、リサイクルというか、魂のこもったものはいつまでも長く使ってほしいです」と願いを込めていた。折れたバットは生まれ変わることができる。形が変わったとしても、使った記憶とともにずっと心に残るものであってほしい。と私も思う。
靴べらや箸に代表されるが、その他にも野球界ではキーホルダーやコースターなどの商品が販売され、スポーツ用品大手メーカーもバットを製造する過程で出た廃材を商品化している。環境に配慮した取り組みの普及は、ファンを巻き込みながら、未来永劫、続いていくことを願う。
2002年に報知新聞社で記者職。サッカー、芸能担当を経て、2004年12月より野球担当。2015年まで巨人、横浜(現在DeNA)のNPB、ヤンキース、エンゼルスなどMLBを担当。2015年からは高校野球や読売巨人軍の雑誌編集者。2019年1月に退社。同年2月から5つのデジタルメディアを運営するITのCreative2に入社。野球メディア「Full-Count」編集長を2023年11月まで務める。現在はCreative2メディア事業本部長、Full-CountのExecutive Editor。記事のディレクションやライティング講座、映像事業なども展開。