【令和の断面】vol.215「サッカー天皇杯で考えたこと」

令和の断面

 サッカー天皇杯全日本選手権(104回)3回戦、柏(J1)対筑波大学の試合に釘付けになった。試合序盤に1点を先制された筑波大だったが、J1クラブを相手にそのままズルズルと失点しないところがさすがだった。2回戦でJ1首位の町田を破った実力は本物で、フィジカルの強さと個々の技術の高さでまったく互角の試合を展開していた。

 しびれるような攻防に柏の井原正巳監督も町田の敗退が頭をよぎったのかもしれない。後半13分からはパリ五輪代表FWの細谷真大(22歳、)を投入し、追加点を狙いにいった。

 しかし、筑波大は最後まで粘り、試合終了間際に相手のオウンゴールを誘い、試合は延長戦に突入する。

 高い気温と湿度で両軍の選手が次々を動けなくなる中(足がつる)、それでも両チームともまったく譲ることはなかった。

 このままPK戦に突入かと思われたが、最後にゲームを決めたのは、やっぱりエースの細谷だった。コーナーキックを頭で合わせ、ここしかないという難しいアングルに見事に流し込んだ。

 試合後は、両軍の選手ともピッチに倒れ込んでしまうほどの消耗戦になったが、この厳しい条件の中でも勝ち切る柏にJ1のプライドを見たし、筑波大のレベルの高さを感じずにはいられないゲームだった。

 この日予定されていたもうひとつのアマチュアクラブ、サッカー専門学校Japanサッカーカレッジ(JSC新潟)とJ2 山口との試合は、悪天候で中止になったが、筑波大同様2回戦でJ1名古屋を撃破したJSCの存在も今大会を大いに盛り上げている。

 リーグ戦と並行して行われる天皇杯は、ノックダウン方式(負けたら敗退)でリーグ戦とは違う緊張感を持っている。しかもアマチュアも参加することで時々起こるジャイアントキリングは、天皇杯ならではの醍醐味になっている。この他サッカーではカップ戦も同時進行で行われている。

 こうしたサッカー界のマッチメーキング、大会運営の妙を考えると、野球界ももっと工夫できる気がする。

 高校野球、大学野球、社会人野球、プロ野球と日本ではそれぞれが長い歴史を持ち、早くから人気を博してきた。それだけに他の組織の野球との交流はなく、それぞれが独自の大会運営をやってきた。またそれで十分に成立してきた背景がある。

 ただ、昨今は野球人口の減少も顕著になり、野球界も新たな改革に積極的に打って出るべきタイミングだと思う。

 例えば、野球界もサッカーを範に夏に全日本トーナメントを実施するのはどうか? 6月に行われる大学選手権の上位チーム、社会人の都市対抗上位チーム、そしてプロ野球12球団で、8月の終わりごろに天皇杯のように日本一を決める大会を開催する。

 あるいは全国を12のブロックに分けて、そこにプロ野球12球団を配し、そのエリアの高校生、大学生、社会人を入れて、地域対抗戦を行う。

 伝統を守ることは大切だが、時代に合った新しい企画を打ち出すことも必要だ。

 ここに書いたことは、まだまだアイデアベースだが、野球界も将来を見据えて魅力的な大会を作ることを提案したい。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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