【スコアブックの余白】Vol.8 プロ野球から社会人野球選手へ 元巨人・桜井俊貴が再び、東京ドームのマウンドへ

スコアブックの余白

(写真・ミキハウス桜井俊貴投手、筆者撮影)

■社会人野球のミキハウスに加入し、都市対抗野球出場を決める

 2022年限りでプロ野球選手として、一度は引退を決断した。閉まっていた思いは消すことができずに、再び、現役復帰を目指した。元巨人の桜井俊貴投手が社会人野球のミキハウス(八尾市)に今季から加入し、見事、都市対抗野球出場を決めた。4年連続5回目の本戦出場に大きく貢献。組み合わせも7月21日に東京ガス(東京都)との対戦が決まった。予選の内容は2完投に加え、出場を決めた日本製鉄瀬戸内戦(姫路市)では9回に登板。3奪三振で勝利に花を添えた。

 桜井の決断を聞いたのは昨年末だった。電話をもらったのは巨人のユニホームを脱ぐことを決めた時以来のこと。未練が残っていた頃の声とは張りが違っていた。昨年は巨人のスカウト活動に勤しみ、その合間(といっても夜遅く帰ってきて、寝るまでの間くらい)に、体を動かす程度しか、復帰への準備ができていなかった。1年間のブランクがある中で、この都市対抗予選にかけていた。

 巨人の本拠地はご存知、東京ドーム。桜井は2015年のドラフト1位で入団し、2019年に8勝6敗の成績でリーグ優勝に貢献。1軍通算は110登板で13勝12敗だった。コロナ禍による無観客試合や入場制限などもあり、スタンドを埋め尽くすファンからの歓声に飢えていた。その声援をエネルギーに代えて、投げることについては不完全燃焼でプロ野球生活を終えてしまっていた。

 引退を決めたが、ギリギリまで他球団の声を待った。独立リーグやクラブチームからの誘いはあるが、NPBからは声が掛からず、志半ばで現役生活に一度は終止符を打っていた。そして、球団からスタッフとして契約をしてもらい、職種はスカウトに。新たな野球人生をスタートさせていた。

 スカウト活動を行っていく中で、2024年夏に都市対抗野球で選手をチェックしたとき。桜井の中で沸々と心に現れるものがあった。企業が大声援をグラウンドに送っているその熱量に心を動かされた。「もう一度、大歓声の中でマウンドに立ちたい」と思うようになった。母校・立命館大学の野球部の関係者からミキハウスを紹介され、話し合いの末、入社。巨人のスカウト部長の水野雄仁氏からも背中を押されたという。

 元プロ野球選手といえども、1年間のブランクを取り戻すのは厳しい。筋力の低下、指先の感覚が失われていることは自分自身が一番、分かっている。京都府内の自宅から片道90分かけてグラウンドに行き、全体練習の前から個人トレーニングを積み、力を取り戻そうとした。今でもまだ100%とはいかないが、今年の都市対抗予選では2完投に加え、最後は火消し役として大車輪の活躍を見せ、チームを本大会出場に導いた。

 今、プロ野球から社会人野球へ活躍の場を求める選手が増えてきている。まだまだ野球でやり残した思いがある選手と、企業としても会社に貢献できる人間性や発信力、そして企業人としての意識がある選手の受け皿となることは大きなメリットとなる。新たな野球人のセカンドキャリアの形として見守り、発信していきたい。

◇Full-CountのYOUTUBEで桜井投手の今を紹介
https://youtu.be/qzD8_hUZLwI?si=wWkVoEOg2oP9IIpt

楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)
2002年に報知新聞社で記者職。サッカー、芸能担当を経て、2004年12月より野球担当。2015年まで巨人、横浜(現在DeNA)のNPB、ヤンキース、エンゼルスなどMLBを担当。2015年からは高校野球や読売巨人軍の雑誌編集者。2019年1月に退社。同年2月から5つのデジタルメディアを運営するITのCreative2に入社。野球メディア「Full-Count」編集長を2023年11月まで務める。現在はCreative2メディア事業本部長、Full-CountのExecutive Editor。記事のディレクションやライティング講座、映像事業なども展開。

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