京都御所の中にある野球場(グラウンド)を「御所G」と呼んで物語は進んでいく。学生や夜の仕事につく人たちが、早朝から「御所G」に集まって野球の試合に興じる。と思いきや、各チームが必死に戦うリーグ戦には、ある特殊な目的が設けられていた。しかも、その戦いはもう何十年も続いている。
何のために彼らは勝とうとしているのか?
そして次々に登場する謎の選手たちは、いったい誰なのか?
奇想天外なストーリーに思わず飲み込まれてしまう万城目学氏の「八月の御所グラウンド」は、先日直木賞を受賞した。
試合の続きは、是非本書で確認していただきたい。
実は、この「御所G」の存在が気になって、京都に行った際にのぞきに行ってみた。本当にそんなグラウンドがあるのか。
これが実に立派なグラウンドが京都御所の中にあるのだ。
広大な京都御所は、そのほとんどが公園になっていて無料で自由に入ることができる。案内の地図を見ると、北東の端「石薬師御門」の辺りにグラウンドの表示がある。南の端、丸田町通りから10分ほどかけて歩いていくと、そこには見事な野球場が3面設けられていた。少年野球はもちろん、大人の草野球でも十分に楽しめる広さが確保されている。
その日は、少年野球の選手たちが練習していた。
「御所G」の外周をぐるっと回ってみたが、周辺には大きな樹木が立ち並び木陰もできて、野球少年たちにとっては最高の環境だと思った。
都心の真ん中にこれだけのグラウンドがある。
しかも御所の中に。
グラウンド1面の使用料は1時間400円とバックネット裏に掲示されていた。
これも少年野球にとっては、ありがたい値段だろう。
先日当コラムで、埼玉県草加市の少年野球を紹介したが、いくつかの小学校で活動する少年野球は、まだ何とか選手が集まっている。
ところが中学の部活動になると、一気に部員が減る。
以前取材した京都の祇園界隈の中学校は、周辺の中学に声を掛けても合同チームの野球部員が5人だと聞いた。
少子化に加えて、野球は部活動でなく地域のシニアリーグやボーイズでプレーする方向にシフトしているようだ。これも悪いことではないが、中学から硬式をやるとなると経済的な負担が大きくなる。いや、硬式で野球をするこどもたちは、小学校から硬式を始めている。
野球は、親の経済的なサポートがなければ、取り組めない競技にもうすでになっているのだ。
「御所G」の存在は、近隣の野球少年(小学生)には有難いものだが、その次の中学の環境が激変している。野球を続けたくても野球をやる場がない。
野球だけでなく、文化部を含めた他の部活もその在り方が問われている。
始まっている文部科学省主導の「中学部活動の地域移行」は上手くいっているのか?
国会議員として、スポーツライターとして、そして元プロ野球選手として、その動向をしっかりとフォローしなければいけない。
こどもたちのスポーツ環境を守るのは、大人の責任だ。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。