高校ラグビー決勝(1月7日、大阪花園ラグビー場)。
東福岡(福岡)対桐蔭学園(神奈川)の一戦は、一瞬たりとも目が離せない素晴らしい熱戦だった。
お互いに相手に対する研究を施し、得意なスタイルに持ち込ませない。
しかも鍛え抜かれたフィジカルが、まったく互角の攻防を展開する。
有機的に連動するディフェンスが、ゲインラインをなかなか越えさせてくれない。息の詰まる肉弾戦が飽きることなく続いた。
前半に1トライ、1PG(ペナルティーゴール)を決めて8対0とリードする桐蔭学園を東福岡が追いかける展開。後半に1トライを奪って3点差まで詰め寄った東福岡だったが、そのまま桐蔭学園が逃げ切って1PG差の僅差で桐蔭学園が4度目の日本一に輝いた。
それはもう、間違いなく高校ラグビー史に残る大熱戦だった。
そんな好試合を報じた日刊スポーツに興味深い記事を見つけた。
日本一を成し遂げた桐蔭学園には、おもしろい儀式があるというのだ。
対戦相手を選手たちが研究し、「学校紹介」と称してスライドを使ってプレゼンをするのだ。
元々は、桐蔭学園・藤原秀之監督が2019年の浦和高校(埼玉)戦の前に自分自身でやったものを選手たちが受け継ぎ、今では対戦相手が決まると選手たちが順番に「学校紹介」をする慣習になったというのだ。
おもしろいのは、その発表内容だ。
例えば3回戦(1日)の光泉カトリック(滋賀)戦の前には、こんな感じで行われたそうだ。
「学校の広さでは勝っているけど、近江牛という名産品では負けている。これで1勝1敗。試合に勝って2勝1敗にしましょう」
学校のこと、地域のこと、歴史、相手監督のことなどを選手たちが自分たちで調べてプレゼンする。何度かやっているうちにユーモアも加わり笑いの絶えない発表になってきているそうだ。
藤原監督は言う。
「よく『相手をリスペクト』と言うけど、本当に分かっているのか?」
そして
「効果があるのかどうかわからないけど、ミーティングは和みますよね」
と、この儀式について話した。
藤原監督は謙虚にその効能について多くを語っていないが、私はこの桐蔭学園の「学校紹介」を知って、素晴らしいアイデアだと思った。
まず何より、相手チームが強くても弱くても身近になる。
些細なことでも、相手を研究、観察する姿勢が生まれる。
また、ミーティングに笑いが起こることで部員たちの発言が活発になる。
そして結果的には過度な緊張が解けて、選手たちを伸び伸びとグラウンドに送り出すことができる。
もちろんこれだけで勝てるほどスポーツは甘くはないが、チームスポーツにおいて、こうした取り組みがチームに自信をもたらし、積極的な思考を生み出すことは容易に想像できる。
ラグビーだけでなく、どんなスポーツにも応用できる学生スポーツならではの工夫と言えるだろう。
東福岡と桐蔭学園。
まったく互角の戦いだったが、もしかすると「学校紹介」から生まれた桐蔭学園の積極性が3点の差になったのかもしれない。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。