令和の断面

【令和の断面】vol.181「大谷選手からの贈り物」

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     先週の原稿(当コラム)を大谷翔平選手が読んでくれた訳ではないだろうが、野球少年の減少に危機感を持ってのアクションである。
     全国20000の小学校にクローブを3個ずつ無償で配るというのだ。
     しかも、ひとつは左きき用だと言うから、素晴らしい気遣いだ。
     下世話な話になってしまうが、グローブは1個10000万円。
     トータル6億円の寄付になるという。

     まず、そのスケールの大きさに驚かされてしまうが、それだけ彼も子どもたちにもっと野球をやって欲しいという思いを抱いているのだ。

     もちろんグローブ3個では試合はできない。
     しかし、学校に届いたグローブにみんなで手を入れてみたり、代わりばんこにキャッチボールをやってみたりすれば、「ボクも」「ワタシも」と野球をやってみたい子が増えるかもしれない。いや、少なくても多くの子どもたちが大谷選手からのプレゼントによって野球に関心を持ってくれるはずだ。
     グラウンドで魅せる彼のホームランや快刀乱麻のピッチングが何よりのメッセージだが、このグローブの贈り物も、日本中の少年少女の思い出になることだろう。

     もうひとつ、大阪からこんなニュースも届いている。
     大阪市内にある公益財団法人日本少年野球連盟(ボーイズリーグ)の本部で「指導者ライセンス制度」についての記者会見が行われ、指導者に対するリーグ独自の講習会の実施と、令和6年度(2024)から有効期限1年の指導者証を交付することを発表した。

     ボーイズリーグには約24000人の球児と約9300人の指導者がいるそうだ。

     同連盟の惣田敏和会長は、「少年野球界で唯一の公益財団法人であるボーイズリーグが率先して行動することで、他リーグも追随することにつながれば、少年野球を取り巻く環境に変化が生じて、野球界の発展の一助になればとの希望を抱いている」と改革の意図を説明した。

     言いたくもない話だが、少年野球では一部の指導者による暴言や暴力が繰り返されてきた。躾(しつけ)の一環ということで、保護者もこれに目をつぶってきた経緯もある。しかし、そうした暴力的な指導で、これまでどれだけの子どもたちが野球を断念したことか……。

     今後開かれる講習会では、怪我をさせない起用方法や練習方法、栄養バランスの良い食事など、各方面の専門家による指導も行われるそうだ。

     この夏の甲子園で優勝した慶応義塾高校は「エンジョイ・ベースボール」を標榜している。
     本来は楽しみながらプレーすべき野球が、いつしか修行や訓練のようになっている。
     「野球は楽しみながらやるからこそ上手くなれる」
     私なりに解釈を加えれば、そういうことだと思う。

     大谷選手のグローブも、そうしたメッセージの一環ではないだろうか。

     スポーツは身体の健康だけでなく、それ以上に心の健全を養うものだ。
     その指導者が教育の名を借りて暴力をふるうようでは、その資格がないと言うべきだろう。

     心の健康を求めて改革が始まろうとしている。
     誰も辞めない少年野球。
     それこそが、これからみんなで目指すべき環境だ。

    青島 健太 Aoshima Kenta
    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
    2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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