母校の話を書く時には、いつも以上に冷静に厳しい姿勢が求められる。
これは30年以上原稿を書いてきたスポーツライターとしての基本的な態度であり、自分自身を戒める自分ルールでもある。そこを誤ると、単なるOBバカ、自分たち本位の喜び原稿になってしまう。
まずは、その姿勢をしっかり意識してこの原稿を書きだそうと思う。
東京六大学野球、秋のリーグ戦で母校の慶應義塾大学が優勝決定戦となった早慶戦に勝って4季ぶり40度目の優勝を飾った。
慶應はすべての大学から勝ち点を奪い、完全優勝を果たした。
原動力は、活発な打線とピッチャーを中心にした守備力にあったと思う。
積極的な打撃は、首位打者となった栗林泰三選手(桐蔭学園4年)をはじめ、打撃ベストテンに4人が名を連ねていることにも表れている。また優勝を決めた早慶戦で勝利を呼び込んだのは、ソフトバンクから3位指名を受けている広瀬隆太選手(慶応高校4年)の大学通算20本目のホームランだった。
春のリーグ戦では「17個」あった失策が,今秋は「6個」にまで減り、守備力の向上もピッチャーを支えた。
そして、選手それぞれの個性を活かして戦った堀井哲也監督の指導者としての手腕も高く評価すべきだろう。
さて大学優勝の報告はここまでである。
本稿のテーマは、夏の甲子園で慶応義塾高校が全国制覇を果たし、そして秋の六大学野球で同大学が優勝したことにある。
慶應関係者にとっては、まったく喜ばしい結果になったが、果たしてこの2つの優勝に相関関係があるのかどうかということである。
ここにはどうしても慶應義塾大学OBの贔屓目も入ってしまうが、それでも、まったく関係ないと言い切ってしまったら、それはやっぱり嘘になるだろう。
早稲田戦のスタメンにも慶應高校出身の選手が4人いる。
高校の優勝が大学の選手たちを刺激したことは確かだろう。
そして2つの野球部がともに標榜しているのは「エンジョイ・ベースボール」である。
この高校と大学の優勝が「エンジョイ・ベースボールの勝利」とは言わない。
しかし、運動部特有の昔ながらの封建的な体質からの脱却が、両者に優勝をもたらしたとは言えるだろう。
選手の自主性に火をつけて、それぞれの主体性を尊重して戦う。
その意味で、選手の考える力を育てなければチームは強くならない。
誤解を覚悟で言えば、もう「文武両道」という言葉は要らない。
スポーツ選手は、両方をやるのが当たり前なのだ。
「それがスポーツで強くなる方法」と言うのが、この原稿の主張だが、これを慶應(高校・大学)の優勝だけで言うのには無理がある。
しかし、そうした自主性の野球、考える野球の流れが慶應の優勝から始まっていると筆者は見ているのだが、「知の力」この視点でこれからもスポーツ界全体を見ていきたいと思う。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。