令和の断面

【令和の断面】vol.178「そんなええと思えてない。岡田監督の揺さぶり」

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    「そんなええと思えてない。岡田監督の揺さぶり」

     10月28日からいよいよ日本シリーズが始まる。
     阪神タイガース対オリックスバファローズの関西ダービーだ。

     どちらが日本一になるか?
     この予想は難しいが、最大のポイントはやはり第1戦だろう。
     もっと言えば、先発が予想されるオリックス山本由伸投手を阪神が後略できるかどうか……にかかっている。

     山本を打てば阪神は勢いに乗るし、一方のオリックスは山本で勝てば自分たちのペースでシリーズを戦うことができる。

     現在25歳の山本は、現時点で日本を代表する投手と言えるだろう。
     この3年間の成績は、21年が18勝5敗(防御率1.39)、22年が15勝5敗(防御率1.68)、23年が16勝6敗(防御率1.21)と文句のつけようがない。
     この間、東京五輪やWBCでも活躍し、2年連続で澤村賞にも輝いている。
     このオフにも、メジャー移籍が噂されていて、日本での登板もおそらくこのシリーズが最後になることだろう。

     それだけに山本に対する注目は、より一層高まりそうだが、そんな盛り上がりにまったく関心を寄せていないのが、阪神の岡田彰布監督だ。
     そればかりか「そんなええと思てない」と、関西弁で言いきっている。

     「そんなええと思てない。『第1戦に投げるピッチャー』としか思うてないよ。なんでそんな山本、山本って言うんやろな。それが俺は不思議よな」

     また、ロッテとのファイナルステージ初戦で先発し、7回10安打5失点のピッチングをつかまえてこうも言っている。

     「そんなええピッチャーやったらそんな取られへんやろ、初回から3点も。何かそら取れる可能性があるいうことやろ」

     この辛口がいつもの岡田監督だと言えば、それまでだが、ここにはやはり指揮官としての思惑が働いているはずだ。
     もし監督が「良い投手で警戒している」と言ってしまえば、その緊張感や良い投手というイメージがチーム内に蔓延してしまう。
     戦う前から対戦相手を過度に評価してしまっては、それこそ敵の思うツボだ。

     だからこんな煙幕も張って見せた。
     もし監督自身が山本と対戦するとしたら?と聞かれ、次のように答えている。

     「165キロ投げる真っ直ぐやったら俺も打てんと思うけどな。ピッチャーいうのは、真っ直ぐが一番の武器やねんから。それに合わして打ついうことやろ。当たり前のことやったらええんやから」

     これを聞いた山本投手は、何を考えるだろうか?
     阪神の真っ直ぐ狙いを警戒するか?
     裏をかいて変化する球を多投するのか?
     いずれにしても、岡田監督のコメントが相手に揺さぶりをかけることは間違いない。岡田監督の山本由伸に対するそっけない評価は、もちろんそこを狙ってのことなのだ。

     すでに舌戦が始まっている日本シリーズ。
     こうした駆け引きで、ますます第1戦が楽しみになってきた。

    青島 健太 Aoshima Kenta
    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
    2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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