「角界にスター誕生 熱海富士」
スター誕生。
角界に待望の新星が現れた。
21歳、熱海富士(伊勢ヶ濱部屋)。
身長185センチ、体重181キロ。
大相撲秋場所。
千秋楽を迎えて東前頭15枚目の熱海富士は、11勝3敗で単独の首位だった。この日の本割で朝乃山に勝てば、入門以来18場所の超スピード優勝が決まる。得意は「右よつ」。一度、右のまわしをつかめば、181キロの巨体を寄せられて相手はなすすべがない。そのまま圧力をかけられて寄り切られてしまう。
たとえ離れての相撲になっても軽快なフットワークと土俵際の粘りで簡単に落ちることはない。
とにかく見ていて楽しい力士だ。
なかでも私が大好きなのは、立ち合い前の独特なステップ仕切りだ。
塩を蒔いて、仕切り線の前に来るとまずは天井をじっと見つめて息を整える。
そして蹲踞(そんきょ)の姿勢を取ってから、彼の不動のルーティーンが始まる。
立ち上がると左足で土俵を掻いて、右足で仕切り線をきれいにする。
そこからステップを踏むこと8回。
左足で土俵を掻くと、今度は右足。また左、そして右。そして5回目の左足になると小さくピョーンと跳んで着地すると、6回目の右足も小さく跳び上がる。
7回目は左足、8回目は右足とこれまた小さくステップを踏んで熱海富士のルーティーンが完結する。
この間、相手を待たすような形にもなるが、熱海富士は臆することなく毎回決まってこの仕切りを敢行する。
この熱海富士の独特のステップには、二つの大きな意味があると感じる。
ひとつ目は、どんな相手でも、どんな場面でも、必ず自分のルーティーンを実行することで自分のペースで相撲を取ることができる。
もうひとつは、軽やかに跳ぶことによって、足首や下半身を柔らかく使うことができることだ。いや、そもそも下半身を柔らかく使っているからこそ、あのステップが踏めるのだろう。181キロの体重がありながらも、それを感じさせない軽快さが熱海富士にはある。
その柔らかいステップがあるからこそ、どこまでも粘り強い相撲が取れるのだ。
残念ながら優勝決定戦で貴景勝に負けた熱海富士は、初優勝こそ逃したが、これからは必ず優勝争いに絡んでくることだろう。
ちなみに優勝決定戦では、立ち合いで貴景勝が左に変わって「はたき込み」を食らったが、この相撲の伏線は、二人が直接対決した13日目の相撲にあった。
この時の貴景勝は、熱海富士の当たりを真っ向から受けて立ち、押し込まれる場面もあったが、最後は右を差して熱海富士を寄り切った。
大関の強さを身に染みて感じた熱海富士は、さらに厳しい立ち合いをしなければ勝てないと思ったのだろう。
優勝決定戦では、まっすぐ頭からぶつかっていった熱海富士だったが、この突進を察知した貴景勝が、左に変わって「はたき込み」で勝ったのだ。
貴景勝は勝つには勝ったが、熱海富士の当たりを避けたのは、それだけ熱海富士の立ち合いにパワーがあるということだ。
優勝こそ逃したが、熱海富士がユニークでスター性のある力士であることは、今場所で十二分に証明された。
断言しよう。
これから熱海富士の時代がくる!
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。