「ブレない岡田彰布監督」
早々とセ・リーグの優勝を決めた阪神タイガース。
大きな戦力補強もせずぶっちぎりでセ・リーグを制した要因には、やはり岡田彰布監督の采配をあげないわけにはいかないだろう。
そこには攻守における選手起用の妙があるが、その根底に流れる精神は情に流されることなく、大胆に戦力を投入したことだ。
岡田監督というと思い出すことがある。
2007年の中日ドラゴンズ対北海道日本ハムファイターズの日本シリーズ。
第5戦(ナゴヤドーム)に先発登板した山井大介は、8回まで1人も走者を出さない完璧な投球をしていた。あと1イニングを抑えれば完全試合を達成する。
ところが9回のマウンドに上がったのは、抑えの岩瀬仁紀だった。
後を受けた岩瀬も三者凡退で抑え、NPB史上初の継投による完全試合が記録された。
この山井から岩瀬への継投をめぐっては、中日・落合博満監督の采配についてスポーツメディア、野球評論家、野球ファンに賛否両論が巻き起った。
このシーズンの岩瀬は、リリーフ登板で一度も失敗していない。
だとすれば、迷うことなく岩瀬を投入すればいい。
しかし、山井には完全試合という偉業がかかっている。
「どうする家康」ではないが、「どうする投手起用」である。
他のチームの監督は、この投手リレーをどう思ったか?
翌日の新聞に各チームの監督のコメントが載っていた。
東京ヤクルトスワローズの野村克也監督をはじめ、すべての監督が「山井続投」を支持している中、唯一、落合監督と考え方を同じくする人がいた。
当時の阪神・岡田監督である。
たった一言のコメント。
「そりゃそうやろう」
つまり、勝利のために山井を代えるのは当然だという考え方だった。
今シーズンのタイガースで同じような局面があった。
4月12日、巨人戦(東京ドーム)。
先発の村上頌樹は、7回まで完全試合を続けていたが、8回表の攻撃で代打が送られ、勝ち投手の権利を持ったまま降板した。
この時もメディアやファンからは、この交代に疑問の声が上がった。
私は、前回の山井のケースがあるので「そりゃそうやろう」と岡田監督の采配に違和感を持つことはなった。
こうした非情とも思える交代に賛否があるのは当然だ。
しかし、岡田監督は一貫してチームの勝利最優先で戦っている。
長いシーズンを考えれば、シーズン序盤で村上に無理をさせる必要はない。
「勝利最優先」の姿勢が、村上の交代でチーム全体にメッセージされたのも確かだろう。
大山悠輔と佐藤輝明をクリーンアップで使い続け、中野拓夢をセカンドにコンバートし木浪聖也をショートに固定した。ルーキーの森下翔太も開幕から大胆に起用し続けた。これ!と決めた選手を使い続けるのも岡田采配の特徴だ。
そのかわり、試合中でもシーズン中でも「ここまで」と判断すれば、どんどん入れ替えていく。
このブレない姿勢、明確な起用法がチームに安定感と活性化をもたらしたと私は見ている。
今シーズンの岡田彰布、勝負師の面目躍如である。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。