令和の断面

【令和の断面】vol.138「PK戦は精神力が決めるのか?」

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    「PK戦は精神力が決めるのか?」

     今年は、これが最後の原稿になります。
     サッカーW杯決勝がとんでもなくすごい試合になったので(もちろん素晴らしい試合という意味です)、締め括りはサッカーで!

     今回は、PK戦に喜び、PK戦に泣かされた大会だった。
     日本代表だけでなく多くのチームがPK戦に臨み、その結果に翻弄された。
     気になったのは、PK戦の結果に触れて、負けたチームは「精神的に弱かったから」という評論が散見されたことだ。

     日本代表がクロアチアにPK戦で負けた時も、「精神力の弱さ」が語られていた。
     これには確かに一理あるが、W杯に出場してくるクラスの選手で精神力が弱い選手など基本的にはいないだろう。そんなメンタルでは、代表に登ってこられないからだ。あのブラジルでさえ、PK戦で散った。ならば、ブラジルも精神的に弱かったということになるのか。彼らは、どこよりも屈強な選手たちのはずだ。

     大事な場面で自分の力を発揮する。
     いつも通りのプレーができるかどうかは、自信と経験からできあがる「メンタル」の要素が大きいことは確かだろう。
     ただ、何度も言うが、W杯に自国の代表メンバーに入るような選手は、メンタルに問題があるようならば最初から選ばれないはずだ。
     だから、負けた原因をメンタルに求めるのは当たっているようで、当たっていないと思う。

     では、何が主たる原因か。
     まずPK戦の行方を決める要因として、その試合がどのような内容だったかがカギを握っている気がする。
     リードしていたチームが、同点に追いつかれて延長の末にPK戦になる。
     この場合は、追いつかれたチームに、よりプレッシャーがかかるはずだ。リードしたまま逃げきれれば勝てていた。それがPK戦になってしまった。損得勘定で言えば、損をした感覚でPK戦に臨む。損を取り戻したいという欲や焦りが生まれる。
     一方の追いついたチームは、負けていたはずの試合が同点になり、PK戦に持ち込むことができた。得をした感覚でPK戦に入っていける。
     この気持ちの違いは、究極のプレッシャーがかかるPK戦においては、精神的なアドバンテージと大きな重圧の違いとなって選手たちに圧し掛かってくることだろう。

     そして、PK戦における流れを決定づけるもう一つの要素は、1番手で蹴る人の成否だろう。もし最初のキッカーが失敗すると前述のゲームの流れ(追いつかれたチームが損をした気分になる)同様に、一気に敗色濃厚の雰囲気が出来上がってしまう。これが後のキッカーに重圧となって襲い掛かっていく。
     また最初のキッカーが外せば、そのチームの落胆分のネガティブが、相手側には同量のポジティブとなってプレゼントされることになる。

     試合の流れ。
     最初のキッカーの成否。

     この両方がPK戦に臨む日本代表にとっては、大きな壁となって立ちはだかった。
     その結果、複数の選手が失敗して勝利を逃すことになる。

     こんなことを書いても、これまた結果論に過ぎないが、PKで負けるのは「精神的に弱いから」という総括は、違うと思う。

     「前後裁断」という言葉がある。
     PK戦のような究極の場面で、できることはそれしかないだろう。
     それまでの流れがどうであろうと、その出来事にできるだけ影響を受けないように、また未来に起こることを考えることなく、前後を裁断してその瞬間に臨む。
     多くのアスリートがこの言葉を好むのは、そこに真実があるからだ。

     迎える新年。
     誰にとっても前後裁断が大事だ。
     良いことも悪いことも忘れて、新たな気持ちで1年をスタートする。

     みなさま、良い年末年始をお迎えください。

    青島 健太 Aoshima Kenta
    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
    2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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