「交流戦優勝のヤクルトは休みながら戦ってる」
今年の野球界は、素晴らしい偉業や思いもよらない出来事が次々に起こる。
千葉ロッテ・佐々木朗希の完全試合(4月10日)に始まって、福岡ソフトバンク・ホークスの東浜巨と横浜DeNAベイスターズの今永昇太がノーヒット・ノーランを記録している。
佐々木朗希もあわや2試合連続の完全試合か?と思われたが、その時は8回でマウンドを降りている。あのまま投げていたら?もしかしたら球史に残る大記録が生まれていたのかもしれない。打つ方では、東京ヤクルトの村上宗隆が2試合連続の満塁ホームランを放っている。この2本目のホームランを東京ドームで実際に見たが、回も同じ3回でまるで前日のリプレイを見るような一撃だった。今シーズンは、まだまだすごい記録が生まれそうな気配だ。
一方、思いもよらない出来事と言っては怒られてしまうが、古巣のヤクルトがなんと交流戦で優勝してしまった。去年、日本一に輝いたチームだからもちろんチーム力は十分にあるのだが、交流戦はこのところずっと「パ・リーグ」が勝ち続けている。2005年に始まって去年まで「パ・リーグ」の優勝が13回、「セ・リーグ」の優勝が3回(巨人2回、ヤクルト1回)、通算成績を含め圧倒的に「パ・リーグ」が勝ち越しているのだ。
その交流戦でヤクルトが優勝する。
これも今年の不思議な現象のひとつと言えるのかもしれない。
※スワローズOBなので、自虐的に謙虚に言っています(笑)
しかし、その戦い方を冷静に見れば、去年から続く高津監督の選手起用の「妙」がうまく機能していることが挙げられるだろう。
ひと言でいえば「メジャー流の戦い方」だ。
長いシーズンを見越して、選手を休ませながら使う。
これまでの日本野球は、固定されたレギュラーがケガでもしない限り出場を続け、レギュラーが決まらないポジションだけに複数の選手が起用されるという戦い方が主流だった。その傾向は、「セ・リーグ」により顕著だった気がする。
ところが高津監督は、調子の如何に関わらず、ときに選手をシャッフルするように大胆な起用を繰り返している。
驚くのは、主砲の山田哲人でさえ、休養日を与えて休ませたりすることだ。
ここまで野手で全試合出場を続けているのは村上と山岡の二人だけだ。
先発投手陣も必ず「中6日」の起用法を守り、ブルペン人も抑えのマクガフだけは惜しみなく投入するものの、他のリリーフ陣は固定することなく満遍なく使い、連投も3試合までと登板過多に気を付けている。40代、大ベテランの石川などは「中10日」の登板で十分に疲労を取ってから投げさせる配慮が功を奏している。
こうした選手起用が、交流戦の優勝にどれだけ結びついたかはわからないが、パワー野球の「パ・リーグ」に対して、ヤクルトの選手たちがいつもフレッシュな状態で臨めていることは勝因のひとつと言えるのではないだろうか。
また日替わりのように代わる選手たちを相手も予想しづらい。
加えて、レギュラーを取ろうとする彼らのモチベーションは高く、それが交流戦14勝4敗、勝率0.778という好成績につながっているのではないか。
交流戦ですでに良い結果が出ているヤクルトだが、今の選手起用はあくまでも長いシーズンを見据えてのものだ。そのことを考えると、選手を休み休み使う高津監督の「メジャー流の戦い方」がこれからますます機能するはずだ。
もしかすると、今シーズン一番のサプライズは、ヤクルトの2年連続の……。
いや、これを言うには、まだまだ早すぎるので、しばらくは独走のヤクルトをじっくりと見ていくことにしよう。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。