令和の断面

【令和の断面】vol.118「野球少年の減少は、用具代が高いから?」

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    「野球少年の減少は、用具代が高いから?」

     子どもたちの野球離れは、野球用具が高額だから?
     ずっと関心を寄せてきたテーマだけに、AERA dot.(5月30日)の記事を読まずにはいられなかった。

     子どもたちの野球離れについては、これまで何度も警鐘を鳴らしてきたつもりだが、改めて直近のデータが紹介されると愕然としてしまう。記事から野球少年の推移を見てみよう。
     全日本軟式野球連盟に登録している学童(小学生)野球チームは、2011年度に1万4221あったが、2021年度は1万229に。
     一方、日本中学校体育連盟によると、11年度には28万917人いた軟式野球部員が、21年度には14万4314人と半減しているというのだ。
     記事では、サッカーやバスケットボールの減少も紹介されているが、野球の減少幅が群を抜いている。

     その一つの理由にスタートアップに必要な道具代にあるのでは?と記事では道具代の比較も紹介している。

     ■少年野球(軟式)
     ユニフォーム上 7000円
     ユニフォーム下 5000円
     帽子 2000~2500円
     アンダーシャツ 1800円
     ベルト 1100円
     ソックス(3足セット)1000円
     ストッキング 900円
     グラブ 7000~10000円
     バット 8000~10000円
     スパイク 5000円
     バッグ 4500円
     合計 43300円
     ちなみにサッカーは19800円、ミニバスは17500円という計算になっている。  
     確かに野球を始めるには、少しお金がかかることも間違いないだろう。
     ただ、それが減少の理由になるかと言えば、AERAの記事も懐疑的な論調を述べている。

     では、何が一番の理由かと言っても、それが分からないから難しい。
     現場を知る人からは、いろいろな意見を聞く。
     ・勝利至上主義の監督やコーチの指導法に問題がある。
     ・保護者が必ず練習等を手伝わなければならない。
     ・試合数が多く、選手や保護者に負担がかかりすぎる。
     ・保護者の関与の度合いでレギュラーが決まる。
     ・週末がほとんど野球の練習で休めない。

     こうしたことも、人によって好き嫌いが分かれるので、一概にすべてが問題だと決めつけるわけにはいかないところに難しさもある。
     最近、文芸春秋から出た「スポーツ毒親」(島沢優子・著)にも、我が子を応援する気持ちが強いばかりに、理不尽な指導を受け入れてしまったり、子どもの自主性を奪ったりしてしまう親御さんの実態が紹介されている。

     一方で、野球少年の減少を肯定的に捉えた意見もある。
     子どもたちの選べるスポーツが、それだけ多様になったのだと!

     さまざまな意見がある中で、私が最も心配していることは、野球の始まる場所が無くなっていることだ。かつては学校の校庭や公園、広場のようなところでキャッチボールや野球の真似事は気軽にできたはずだ。それが今では、ほとんどの公園が球技禁止。学校の校庭も授業が終わっても自由に開放されるわけではない。つまり、野球をやりたくてもやれる場所がないのだ。これはサッカーや他のスポーツでも同じ環境にあるといえるだろう。子どもたちのスポーツが習い事や塾に行くような手続きを踏まないと始まらない。言えば、そういう時代になってしまったのだ。

     だからこそ、行政や学校や地域がスポーツを自由にできる場所をきちんと作っていかないと、子どもたちがどんどんスポーツから離れていってしまう。
     eスポーツの台頭も歓迎すべきことだろうが、もしそれが「野球ができないから」とか「外で遊ぶ場所がないから」という理由で人気になっている面があるとすれば、
    これも懸念すべきことだ。

     簡単に答えは見つからないが、子どもたちが好きなスポーツに興じられる環境を用意することは、私たち大人の、そして行政の責任だと言えるだろう。
     必要なのは、用具代が安くなることではなくて、何でもできる大きな公園ではないだろうか。

    青島 健太 Aoshima Kenta
    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
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