令和の断面

【令和の断面】vol.115「エンゼルスの寺ちゃんのこと」

SHARE 
  • 連載一覧へ


    「エンゼルスの寺ちゃんのこと」

     去年(2021)7月、流れ出した土石流で大きな被害に見舞われた熱海市伊豆山地区。その熱海の子どもたちにお見舞いの意を込めて、今年で28回目を迎えるプロ野球OBクラブ主催(全国47都道府県で開催)「セノン全国少年少女野球教室(@静岡県)」は熱海で開催された。
     5月8日、私もヤクルトスワローズのOBとして熱海に行ってきた。
     野球場のとなりはすぐ海で、相模湾を望む最高のロケーション。
     小学生約100人が参加した野球教室は、天候にも恵まれて楽しい時間を子どもたちと一緒に過ごした。

     熱海会場で指導に当たったOBは9人。※敬称略

     八木沢荘六(ロッテ、プロ野球OBクラブ理事長)
     猿渡寛茂(東映、日拓、日本ハム)
     袴田英利(ロッテ)
     植松精一(阪神)
     増本宏(大洋)
     山内和宏(南海、ダイエー、中日)
     鈴木平(ヤクルト、オリックス、中日、ダイエー)
     寺田祐也(阪神)
     青島健太(ヤクルト、当日の司会進行)

     将来有望な選手もたくさんいたが、ここではちょっと違う視点の話をしておこう。
     この日、静岡市から参加した元阪神の寺田さんと会うのははじめてだったが、不思議な縁がある。彼のお兄さん(庸一氏)も野球選手だったが、現役を辞めてからは選手をサポートするトレーナーの道を志した。
     その寺ちゃん(庸一氏)に、私が監督を務めたセガサミーの選手たちを見てもらっていたのだ。
     その後、寺ちゃんはアメリカに渡りメジャーリーグ球団のトレーナーとなる。そこでアルバート・プホルス選手に気に入られて、彼がカージナルスからエンゼルスにトレードされた時に、寺ちゃんも一緒にエンゼルスに移ったのだ。そしてそのエンゼルスに大谷翔平選手がやってくる。
     大谷翔平選手が出場する試合のテレビ中継は、もちろん大谷君を集中して見ているのだが、時々ダッグアウトに現れる寺ちゃんを見るのが、私の密かな楽しみになっている(笑)。

     さて、野球教室の話題でなぜこんなことを書くかと言えば、残酷な言い方になるが、すべての子どもがプロ野球選手になれるわけではない。ほとんどの子どもが、最終的には選手を諦めることになる。
     我々プロ野球OBが指導して、子どもたちのスキルアップに貢献することはもちろん大事なことだが、それと同時に忘れていけないことは、どんなレベルの子でも、野球を好きにしてあげることだろう。
     ボールを投げる喜び、それを遠くまで打ち返す楽しさ、得点が入る嬉しさ、ピンチを切り抜ける安堵感、勝利の興奮と敗北の悔しさ。こうしたことのすべてが野球(スポーツ)の魅力だ。
     それを後押ししてあげるのが、プロ野球選手とOBの一番大切な役割なのだ。

     そして野球好きになった彼ら彼女らが、スポーツをサポートする人になっていく。
     その中から寺ちゃんのような人も出てくる。
     選手だけが偉い訳ではない。
     スポーツにはいろいろな道があるのだ。
     だから熱海会場に集まった子どもたちにも是非野球好きになってもらいたいという気持ちでOBたちも明るく接した。

     ただ、今はまだ選手としての夢をもって、野球と勉強に明け暮れていればいいのだ。

    青島 健太 Aoshima Kenta
    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
    バックナンバーはこちら >>

    関連記事