「令和の怪物が完全試合達成」
これぞ「令和の断面」と呼びたい偉業が達成された。
4月10日のZOZOマリンスタジアム。
22431人の観衆が、固唾をのんで彼のピッチングを見続けた。
オリックスの最期の打者・杉本に投じた105球目は、空振りを誘い松川捕手のミットにおさまった。
これで完全試合達成。
千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手(20歳)が、プロ野球史上16人目となる完全試合をやってのけた。
この日の記録は、これだけではない。
28年ぶり16人目の完全試合の他、プロ野球新記録となる13者連続奪三振。
プロ野球タイ記録となる1試合19奪三振も達成している。
記録づくめの快投は、地元東北の街頭で号外が配られるほどの快挙だった。
この日の投球は、すべてのボールがよかった。
自己最速タイの164キロを出したストレートは、速いだけでなく抜群のコントロールでベース板の隅をよぎった。このボールを意識させられると変化球の威力も倍増する。フォークやカーブも面白いように決まり、相手打者はまったく的を絞ることができなかった。というより、ストレートとフォークは、分かっていても打てないレベルのボールだった。実際に、この2つのボール(ストレートとフォーク)で相手打者を牛耳っている。
受けたキャッチャーが年下のルーキー松川(18歳)だったことも、捕手に気兼ねせず投げたいボールをテンポよく投げるリズムの良さにつながっていたのだろう。
三振を喫した日本を代表する好打者・吉田(正)も「フォークが消える」とこの日のピッチングには、完全にお手上げだった。
佐々木朗希のピッチングのすごさをあげたらキリがないが、ここでは彼の語った気になる言葉を紹介しておこう。その方が、きっと私たちにも役に立つことになるだろう。
まず試合前の松川との話し合いについて「最近は、ほとんどシミュレーション通りに投げられるようになった」と言っている。
ここで注目すべきことは、試合前の準備で相手を抑えるイメージをしっかりと作っていることだ。ストーリーを描いておくと言ってもいいだろう。その方針に沿って、マウンドに上がったら無心で思い切って投げ込んでいく。
「真っすぐがしっかり通せていたので(中略)ゾーンで勝負したなと思っていました」
これはかなり専門的な言い回しだが、言っている内容はシンプルだ。
ストレートが思うように投げられていたので、ストライクゾーンにどんどん投げ込んでいこうと思っていたということだ。
下手な小細工をせず、自分の長所を全面に出して相手と勝負する。
これもまた、自分の調子を上げていく王道の戦い方と言えるだろう。
完全試合を意識したか?という問いには、こんなふうに答えている。
「(記録が)かかっていたのは、わかっていたのですが、打たれてもいいなと思って投げていました」
何が何でもやってやろうというより、かなり力の抜けた態度だ。
偉業を意識するよりも自分のやるべきことに集中する。
結果を考えない無心の取り組みが、結果的には良い結果を連れてくるのだ。
彼は、これから先のキャリアで「(完全試合は)もうできないだろう」と言っていたが、その考え方も次の偉業を引き寄せる気がする。何事も力まずに自然体でいることが、彼のすごさであり、力を発揮する大切なスタイルと言えるだろう。
60歳を超えた青島だが、この試合なら現役に戻って出場できたかもしれない。 何しろ19奪三振だから、打球がほとんど飛んでこない(笑)。守備位置に立っていればいいのだ(笑)。
いや、エラーでランナーが出塁すれば、完全試合が消滅する。守っている野手にとって、これほどプレッシャーがかかる試合はない。
前言は撤回します。そして、野手のみなさんも、本当にお疲れさまでした。
「令和の怪物」が、見事に「令和の断面」を切り取った
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。