「東都大学野球の大分開幕を喜ぶ」
通勤で利用する東急・池上線の駅でフレッシュなポスターを見かけた。ユニフォームを着た6人の大学野球選手と同じ大学のチアリーダー6人がそれぞれの抱負を大分弁で述べている。
選手「大分で本物の野球みせちゃる」
選手「東都の虜にしちゃる」
チア「やっぱり大分すきっちゃ」
チア「私は温泉いっちゃお~」等々。
それは4月に大分県大分市で開幕戦を迎える東都大学野球(春季リーグ戦)の告知ポスターだった。
去年の12月にも本コラムで紹介したが、いよいよその時が近づいてきた。
カードをご案内しておこう。
■4月2日(土)
10:00(国学院 対 中央)
12:30(青山学院 対 日大)
15:00(駒沢 対 亜細亜)
■4月3日(日)
9:00(中央 対 国学院)
11:30(日大 対 青山学院)
14:00(亜細亜 対 駒沢)
会場:別大興産スタジアム(新大分球場)
両翼100m、中堅122m、収容人員15500人
神宮球場を拠点に90年を超える歴史を持つ東都大学野球だが、開幕戦を大分で行うのは初めての試みだ。
前回(当コラム)は、学生スポーツのビジネス的価値をもっと有効に使うべきだという意見を述べたが、コロナ禍にあってその方向性はますます重要なテーマになってきていると思う。
テレワークの普及で人の流れが大都市から地方へと向かっている。また多くの人の健康やライフスタイルに対する関心が高まっている。そうしたことにともなって、スポーツを通じた地方活性化は、いまや大きなトレンドになりつつある。サッカーやプロ野球は言うに及ばず、バスケットボールのBリーグやラグビーのプロリーグ「リーグワン」も全国的な広がりを見せている。地方都市がスポーツを求めているのだ。
学生野球にとって神宮球場はまさに聖地だが、これからの時代は東都大学野球のように「自分たちの試合を地方で観てもらう!」という柔軟な発想が大事になってくる気がする。
こうした試みが新しいファンを開拓する。
学生スポーツ招致の最大のメリットは、それを受け入れる自治体等にとって大きな経費がかからないことだろう。プロスポーツであれば、試合会場はもちろん選手たちの宿泊施設もそれなりのレベルが求められるし、興行的な成功も目指さなければならない。
ところが学生たちなら、宿泊も食事も相応のものでいい。
観戦の入場料も、子どもから大人まで安く済む。またそれを観た子どもたちにとっては、大学生のプレーが良き見本になったり、大学の宣伝(リクルート活動)になったりもする。
自治体や地元の経済界、また地域の人々、そして大学と選手たち……、大学スポーツは誰にとっても歓迎されるコンテンツなのだ。
そしてここでもうひとつ指摘しておきたいこうした遠征(地方開催)の魅力は、選手たちの経験の幅を広げることだ。野球を通じていろいろな地域を訪ね、そこで活躍するさまざまな人たちの存在を知る。もちろん応援に来てくれるチアリーダーの学生にも良き経験になることだろう。
私も大学時代は、体育会の野球部で毎日野球に明け暮れた。大学野球は練習が厳しいので、学生たちの生きる世界がどうしても狭くなる。合宿所と練習グラウンドと試合をする球場を行ったり来たりする日々。
それはそれで充実感はあるのだが、野球の試合を通じていろいろなところに行けることこそ野球選手の特権だ。
そうした意味で、今回の東都大学野球の大分開催は、これから先の大学スポーツの新しい形を見せてくれている。
「大学スポーツで地域活性化」
東京や大分以外から観に行く人も、もちろん大歓迎だ。
旅館やホテルも待っている。
泊りがけなら、なおさら喜ばれることだろう!
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。