「ジャンプ史上最低最悪の事態 FISの責任を問う」
日本には「阿吽の呼吸」や「空気を読む」といった言葉がある。これに「忖度」みたいなことが加わると、昨今は悪事やネガティブな行為を意味してしまうが、元々は日本の文化ともいえる共同体での嗜(たしな)みや常識だ。これを働かすことで私たちの社会は成り立っている。
どこの地域でも、どこの組織でも、老若男女を問わず、少なからず機能している私たちの処世術、決して悪いことではないと私は思っている。
つまり、そうしたことができないと、人間関係がギスギスして社会がうまく回っていかないのだ。
そして、これが極めて日本的なことかといえば、程度や頻度の差こそあれ、どこの国、どこの社会でもあることだろう。
なぜなら「阿吽の呼吸」も「空気を読む」も、人種や文化を問わず、人間がノンバーバル(非言語)で行う、極めて人間らしい行為や配慮だからだ。
冒頭から妙な文化論を展開しているのは、怒り心頭、暴れたいほど怒っているからだ。この怒りのままに書いてしまったら、どんなことを言い出すか分からない。だから、前段は落ち着くための緩和措置である。できる限り冷静に今回の原稿を書こうと思う。
それにしても思う。
FIS(国際スキー連盟)は、一体全体、何を考えているのか?
会長を含め関係者は、総辞職した方がいい。
いや、するべきだ。
それくらい酷いことが起こったと思う。
北京五輪スキージャンプ混合団体(2月8日)で失格(スーツの規定違反)になった高梨沙羅選手の一件である。
ここははっきりさせておこう。
「阿吽の呼吸」や「空気を読む」ことで、違反を見逃せと言うつもりは毛頭ない。
むしろそうした検査は競技の公平性を確保するために、抜け道のないようにつねに厳格に行われるべきことだ。
言いたいのはそこではない。
なぜ五輪の本番でそんな無茶なこと(失格者を多数出すこと)をするのかということだ。もし、五輪でスーツのルールを徹底周知したいのなら、大会の前にやるのが常識だろう。それが「阿吽の呼吸」というものだ。
今回の検査方法は、いままでと違う方法で行われたという証言がある。また「女子の検査が甘い」等、なぜか検査員同士の指摘があり、最悪の結果(5人が失格、しかもすべて女子選手)を生んだとの情報もある。
現場で何が起こったのか(他にも細かい情報もあるが…)は、正確に分からないので、ここは怒りを抑えて今後のFISの発表や報道を待つことにしよう。
それにしても競技機会を奪われた選手たちの事実は変わらない。
FISは、新種目となった今回の混合団体で何を見せたかったのか?
世界中のジャンプファンに何を届けたかったのだろうか?
まさか「違反をすると競技に出られません」というメッセージを、五輪を通じて世界中に発信したかったのか?
そうとしか思えない愚行だ。
残念過ぎて、悲し過ぎて、言葉がない。
「五輪では全員が違反のないスーツで飛ぶ」
そのことを徹底したかったら、五輪直前まで行われていたW杯のいずれかの大会で厳しい検査をやればよかったのだ。そして「五輪ではこうしたことがないように…」というメッセージを関係者に周知する。そんなことはちょっと考えればできることだろうし、そこで働かすことになるのが「阿吽の呼吸」や「空気を読む」という感覚だろう。
せっかくの新種目が台無しになってしまった。
今回の件で、どれだけのジャンプファンを失ったことか?
そして、高梨沙羅選手をはじめ失格を言い渡された選手たちのプライドも正義感も、競技への真摯な思いも、まったくピント外れなFISの愚行がすべてぶち壊してしまった。
これは本当に罪深いことだ。
そもそも競技を終えてからの検査は、違反者を摘発するためのものだ。
そんなことをしても、気持ちのよいものではない。
なぜ競技前にやらないのか?
これからは、競技前にスーツをチェックして、全員をクリーンな状態で飛ばしてあげて欲しい。そのチェックを良いことに競技直前に違反スーツに着替えるような選手がもし現れたときには、その選手を永久追放にすればいい。
それなら筋が通っているし、空気を読まない選手が悪い。
今回は、日本以外にもドイツ、ノルウェー、オーストリアと10か国中4か国に失格者が出た。冬の五輪史上、最低、最悪の事態だ。
各国は、それぞれ意見書のようなものをFISに提出するという。
果たしてFISがどんな回答を示すのか?
起こっていることは、スポーツにとって最大の危機だ。
そのことをFISはわかっているのだろうか?
失格者たちの怒りをしっかり読んで、的確な回答(解決策)を示さなければ、スキージャンプに未来はない。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。