令和の断面

【令和の断面】vol.97「つまらないほど強い古江のゴルフ」

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    「つまらないほど強い古江のゴルフ」

     年末にうれしいニュースが飛び込んできた。
     来シーズンのツアー出場権をかけたアメリカ女子ゴルフ最終予選会で、古江彩佳選手(21歳)と渋野日向子選手(23歳)がともにカットラインの45位以内に入り、来季の出場権を獲得した。また20位以内の選手は、ほとんどの大会への出場が可能で、古江は7位、渋野はギリギリの20位で、2人ともアメリカを主戦場に戦えることになった。

     もう詳細が報じられているように渋野の20位は劇的だった。7ラウンドを終わって29位につけていた渋野は、最終の8ラウンド目を69で回り、タイで並んだ選手よりも最終日の成績で上回ったため、ギリギリ滑り込みセーフで20位を手にした。
     最後までハラハラさせて、最終的には出場権を獲得。
     この人には、いつもドラマチックな展開が似合うようだ。

     19年にAIG全英オープンを勝った時もそうだった。最後にミラクルなショットを連発して初出場でメジャー制覇をやってのけた。
     その後、さらにコンスタントな成績を求めてスイング改造に取り組んでいたが、なかなか思うようなゴルフができず苦しんでいた。目標にしていた東京五輪への出場も叶わず、ずっと悔しい思いの中でプレーしてきたことだろうが、これで堂々とアメリカに乗り込むことになるだろう。彼女の能力の高さと爆発力は、全英オープンの優勝でもう十分に証明されているので、アメリカの環境に慣れれば、優勝戦線につねに名を連ねる活躍を見せることだろう。

     渋野の活躍、そして優勝を、筆者ももちろん期待しているが、この稿で推したいのはむしろ古江彩佳だ。
     スター性抜群の渋野は、ファンにとってもメディアにとっても今やアイドルのような存在だが、アメリカで先に勝つのは、きっと古江の方だと予想している。
     出場権獲得も渋野がスポーツ紙の一面で報じられているが、実際には古江が7位で渋野は20位だ。

     その内容を見ても、10日間で8ラウンドをこなす強行軍の中で、古江は1度もダブルボギーを叩かず、全8ラウンドをパープレー以内(69、67、69、70、70、69、72,70)で回っている。その安定感は、アメリカでプレーさせても日本国内のプレーとまったく変わらない。
     今季は、賞金女王(2位)こそ逃したが、古江のゴルフは「つまらない」と言いたくなるほど安定していた。もちろんこれは筆者流の誉め言葉だ。

     以前、渋野が「おもしろいゴルフ」を目指していることを紹介したが、古江のゴルフは「つまらないほど強いゴルフ」だ。
     その意味でも二人は対照的な選手と言えるだろう。
     身長も、167センチの渋野に対して、古江は153センチしかない。
     しかし、この小柄な体格が、古江のゴルフを支えていると言えるだろう。

     「ないものねだりをしない」
     「できることを確実にやる」
     それが、古江ゴルフの神髄だ。

     そうしたプレースタイルは、今シーズンの記録を見ても一目瞭然だ。
     平均ストローク数は、稲見萌音に次いで2位。トップテン回数は3位。パーオン時の平均パット数は1位。パーセーブ率は2位。平均バーディー数は3位。スリーパット率は、もっとも低く1位。どの記録を見ても、ほとんど3位以内に古江の名前がある。
     そして50位以内にも入らないのが、ドライビングディスタンスだ。
     また注目すべきは、決勝ラウンドのストローク数が1位だと言うことだろう。

     つまりドライバーは飛ばなくてもショットとパターの安定感は抜群で、試合になると最終日にめっぽう強いということになる。

     渋野の大きな記事の脇に古江のコメントが小さく載っている(日刊スポーツ)。
     「安定したスコアで毎回回れたと思うのでよかった」
     「緊張や重圧もあまりなくて、いつもの試合通りという感じでできた」

     古江は、明らかに過小評価されている。
     しかし、これも彼女にとっては、良いことだろう。
     小さくて目立たない選手が大きなことをやってのけた時に、そのインパクトはさらに大きくなる。古江は、きっとそんなことをやってくれる気がする。

     初優勝を期待する記者の質問に古江は、こんなふうに答えている。
     「スピーチは、やばいです(笑)。頑張らないと」

     英語を心配しながらも、彼女はもちろん優勝を狙っているのだ。
     最後にもう一度言っておこう。
     来季のアメリカ女子ツアーは、「古江彩佳」推しだ!

    青島 健太 Aoshima Kenta

    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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