「大会開催を叶えるバブル方式」
スポーツ界で今、「バブル方式」という言葉が使われている。
コロナ禍にあって、大きな大会やイベントを開催するための感染予防対策だ。
選手がプレーする会場と宿舎等(移動を含め)をバブル(泡の膜)で包むように囲い込み、感染の可能性が高まる外部との接触を断とうとする方式だ。
選手は、ホテルの同じフロア(選手関係者専用)で過ごし、移動も選手専用の車両で動く。到着した会場(スタジアムやアリーナ等)でも選手だけの導線を使い、試合後は同じようなルートで宿舎に帰る。こうしたバブル(感染予防膜)を形成することによって、選手関係者をウイルスから守る開催様式だ。
国内外を問わず、今、大きなスポーツイベントはこうした様式(方法)を取り入れることによって開催にこぎつけている。
「バブル方式」の成果を国内外にアピールしたのは、昨年末に行われた代々木体育館での国際親善体操大会だった。海外からも選手を招き、国際的な大会を開催したが感染者を出すこともなく無事に大きな大会をやり遂げた。
2月1日から、プロ野球のキャンプが始まった。
例年であれば球春到来。多くのプロ野球ファンがキャンプ地に駆けつけて練習する選手たちに声援を送る。
12球団がキャンプを張る宮崎県や沖縄県、またそれぞれの市町村は、やってくるファンがもたらす経済効果にも助けられてきた。
しかし、今回のキャンプは無観客でスタートしている。
各チームは、地元自治体とも連携しながら「バブル方式」で選手や地元住民を感染から守ろうとしているのだ。
去年、中止になった選抜高校野球も出場校が発表された。現下のコロナの状況はまったく予断を許さないレベルだが、何としても高校生たちに試合をさせてあげたい。
春の甲子園も「バブル方式」を参考に、開催方式を模索することだろう。
問題は、この夏に迫った東京五輪・パラリンピックだ。
常識的に考えて、あと半年でコロナが完全に収束しているはずがない。
これからワクチンが供給されたとしても、そもそも夏までに全国民にワクチンが届くスケジュールになっていない。海外からの来訪者も想定すれば、現実は、コロナ禍の中 でどんな大会が開けるのかということだろう。
あるいは、最悪の場合はもちろん中止や再延期ということも想定しておかなければならない。
ただ、去年も大相撲やプロ野球、Jリーグなどがいろいろな知恵を絞りながらシーズンを戦い抜いている。
いま、五輪の開催を軽々に口にすると「危機感が足りない」「現実認識が甘い」「スポーツに浮かれている場合ではない」と言った批判を受ける傾向にある。
現状の感染状況を考えれば当然の反応とも言えるだろう。
しかし、五輪やスポーツに罪はない。
これをやるかやらないかは、私たちの意思で決めることだ。
誰かが基準を作り、誰かが判断することではない。
その決断をするのは、私たち自身だ。
もちろん最終的な決定は、IOCが下すのだろうが、やはり私たちは最後まで「どうすれば開催できるのか」を考えるべきだろう。
先の体操の国際大会で内村航平選手がスピーチで言った。
「国民の皆さんが五輪ができないんじゃないかという思いが80%を超えていると。しょうがないとは思うけど、できないじゃなく、どうやったらできるかをみなさんで考えて、そういう方向に変えてほしい。非常に大変なことであるのは承知の上で言っているのですが、国民のみなさんとアスリートが同じ気持ちでないと大会はできない。なんとかできるやり方は必ずある。どうかできないとは思わないでほしい」
まだ、希望を捨てるべきではないだろう。
「バブル方式」に可能性は十分に残っている。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。