「石川佳純の自信が日本チームの武器になる」
卓球の全日本選手権最終日(1月17日、丸善インテックアリーナ大阪)
準決勝の伊藤美誠選手と早田ひな選手の対戦を見て、これが事実上の決勝戦だろうと思った。伊藤は東京五輪シングルス日本代表、早田はシングルスの代表こそ逃したが、このところの勢いは、日本女子選手の中で一番の成長を遂げている。共に年齢は20歳。もう一人のシングルス代表、平野美宇選手も20歳。時代は完全に彼女たちに移っていた。
ちなみに日本選手権は、17年に平野、18年19年と伊藤が連覇、20年は早田が勝っていた。
だからかつての女王・石川佳純選手(27歳、東京五輪シングルス代表)が決勝に勝ち上がってきても、伊藤に一蹴されるのだろうと思っていた。
始まった決勝戦。
伊藤美誠(世界ランキング3位)対石川佳純(同9位)。
案の定、伊藤がいきなりペースをつかみ、1ゲーム目を11対4であっさりと取る。2ゲーム目は、石川が11対7で取り返したが、3ゲーム(7対11)、4ゲーム(7対11)を連続で落とし、伊藤がゲームカウント3-1で3度目の優勝に王手をかけた。
11年、14年、15年、16年とこの大会を4度勝っている石川だったが、若手の台頭に「彼女の時代は、もう終わった」と思わされる展開だった。
スポーツは、いつでも残酷だ。
この決勝で世代交代がより明確になる。
その思いで、あと1ゲームを見るのだろうと思っていた。
ところが試合が終わって泣いたのは、伊藤の方だった。
いや、石川も嬉しさのあまり泣いていた。
5ゲーム目を12対10の接戦でものにした石川は、試合を決めにくる伊藤のボールを必死に拾い、焦り出した伊藤のミスを誘う。伊藤の繰り出すさまざまな回転もブロックやストップ、ツッツキで返し続け、後のない展開からじわじわと盛り返す。
最終ゲームも9対9ともつれたが、それでも最後まで諦めなかった石川が11対9で、自身5度目の優勝を飾った。
「伊藤選手は中国にも勝てるし、見習うところがたくさんある。年は(私の方が)上だけど、『負けてもともと』。リードされても最後まで諦めないと決めていた」
サーブ、レシーブ、スマッシュ、何でもこなす石川は、オールラウンダーとして活躍を続けてきたが、このところは勝てないこともあって、「石川の卓球は古い」「全日本はもう勝てない」と言われていた。
時代はスピードと攻撃性を求めている。
彼女自身もそのことを自覚している。
しかし、彼女は諦めなかった。
バックハンドをパワーアップし、若手のスピード感を吸収し、戦術を練り、タフなハートで最後までくらいついていく。その姿勢が、相手を追い詰めていく。
進化し続ける今の卓球に、石川は見事に対応して見せた。
まだまだやれる。
そのことを卓球が教えてくれた。
27歳。
5年ぶりに女王に輝いた石川の復活は、五輪に向けて大きな収穫だ。
彼女が取り戻した自信は、日本チームにとっても大きな武器になるだろう。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。