令和の断面

【令和の断面】vol.35「進化を続ける大坂なおみ」

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    「進化を続ける大坂なおみ」
     テニスの全米オープン(ニューヨーク)で、大坂なおみ選手(22歳、日清食品)が2度目のチャンピオンに輝いた。
     現地時間9月12日、大坂選手は、今回着用し続けている黒いマスク姿で決勝のコートに現れた。黒いマスクには、人種差別への抗議が込められていたが、決勝まで進んだことで、用意した7枚(それぞれに亡くなった方の名前が入っている)すべてを披露することができた。
     人種差別の問題に対しても、はっきりと自分の意見を表明するところに自立した彼女の強さがあることは間違いないだろう。
     それは、コート上でも十分に発揮されていた。

     決勝戦の相手は、ビクトリア・アザレンカ選手(31歳、ベラルーシ)。身長180センチの大坂選手よりさらに大きい183センチもあり、出産を経てカムバックした経験豊富な選手だ。ツアー優勝21回、グランドスラム(四大大会)も全豪オープンを2度制している実力者だ。
     このアザレンカ選手に、大坂選手が第1セットを6-1であっさりと落とした時に、正直に言えば「もうダメだ」と思った。
     事実、これを逆転して大坂選手が優勝するのだが、1セット目を失ってからの逆転優勝は、26年ぶりのことだった。つまり第1セットが勝敗のカギを握っているのだ。これを取られると一気に試合を決められてしまう。

     この時、テレビを見ていて気になったのは、コートチェンジで大坂選手がベンチに戻ると、頭からすっぽりとバスタオルかぶり、その中で瞑想するように大坂選手がじっとして動かなかったことだ。
     第1セットが終わって第2セットが始まるまでは、ずっとタオルをかぶって自分の世界にこもっていた。

     この時、彼女が何を考えていたのかは分からないが、必死に自分のプレーに集中しようとしているように感じた。

     大坂選手は、今シーズンからウィム・フィセッテコーチの指導を受けている。
     データの魔術師の異名をとるフィセッテ氏は、的確なデータ分析から選手に指導を施し、試合では相手の情報を提供して戦略を授ける。

     以前は、自分のプレーが思うようにできないと、そのストレスをコート内で爆発させていた大坂選手だが、今大会ではそうしたシーンがまるでなかった。
     アザレンカにあっさりと第1セットを取られた時も、そうしたストレスが噴出するかと思ったが、大坂選手はベンチに座ったままタオルをかぶってじっとしていた。
     私は、その静かな大坂選手を見ながら「何かが変わった!」と思った。

     そのヒントをフィセッテ氏が語っている。

     「ナオミが感情をコントロールできなかったは、2つの理由がある。1つは彼女があまりにも早く成功した。この先、すべての試合に勝とうと思ったはずだ。それが、間違い。あまりにも期待が高すぎる。2つ目はものの考え方だ。もちろん勝ちたい。しかし、それを考えては、すべてが悪くなる。まず自分に集中し、次に戦術を組み立て、いいエネルギーを生み出す。パズルのようだが、それがかみ合えば、勝利につながる」(13日、日刊スポーツ)

     バスタオルをかぶっていた大坂選手は、周囲を遮断して自分に集中していたのだろう。そして、冷静に戦略を変更する。得意のクロスでの打ち合いを封印し、アザレンカの戦法を逆手にとってストレートに打って、アザレンカを左右に動かし出したのだ。これで本来のリズムを取り戻した大坂選手は、2セット、3セットを連取して逆転優勝を飾った。

     豪快なパワーテニスに、セルフマネジメントが利いた大坂選手は、ミスが極端に少なくなって負けない選手に変貌を遂げていた。

     「ニューなおみ、オールドなおみがいるかどうかは分からないけど、自分を進化させることができたと思う」

     全米(2回)、全豪(1回)の優勝を誇る大坂選手。残る全英と全仏を勝てば、生涯グランドスラムを達成することになる。
     その偉業は、時間の問題のような気がする。

    青島 健太 Aoshima Kenta

    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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