令和の断面

【令和の断面】vol.25「外国人捕手に注目」

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    「外国人捕手に注目」

     プロ野球に注目の選手が現れた。
     中日のアリエル・マルティネス選手だ。
     キューバ出身の24歳。
     なんと外国人選手でありながら、そのポジションはキャッチャーなのだ。

     7月4日の巨人戦(東京ドーム)、6回表に代打で登場すると、そのままキャッチャーとして守備につく。外国人選手が捕手で出場するのは、2000年7月19日にディンゴ(中日)が守って以来、20年ぶりになる。
     この試合では2回打席に立って、四球と投ゴロに終わったが、守備では早速その強肩で見せ場をつくった。
     6回裏、巨人先頭の吉川(尚)が四球で出塁すると、すかさず盗塁を仕掛けてくる。これをドンピシャのストライク送球で軽くアウトに仕留めたのだ。

     この盗塁阻止で首脳陣も彼を使ってみたくなったのだろう。
     翌5日は、8番キャッチャーでスタメンに名を連ねた。
     試合前には円陣の中でチームメイトに檄を飛ばした。
    「3連敗で名古屋には帰れない。必ず今日勝って名古屋に帰ろう!」

     A・マルティネスは、その言葉通り試合でも大活躍。
     守備では先発の梅津を好リード、打っては3安打の猛打賞、チームは6対4で巨人に勝った。
     アルモンテの故障で、2軍から急遽1軍に合流したA・マルティネスだったが、中日にとっては思わぬ新戦力の登場になった。

     単なる外国人選手の活躍なら、3安打したくらいで騒ぐこともないだろうが、注目すべきは彼がキャッチャーだということだ。
     外国人捕手となると、最近では、中日のディンゴ(捕手としては前述の1試合しか守っていない)、あるいはロッテのディアズを思い出すが、その前となると77年のギャレット(広島)までさかのぼることになる。

     これだけ外国人選手が活躍する日本のプロ野球で、なぜ外国人のキャッチャーがほとんどいないのか。そこには大きく2つの理由がある。

     ひとつは、コミュニケーションの問題だ。キャッチャーは、投げているピッチャーといろいろなことを話し合う。またベンチで首脳陣との対話もある。守っている野手にいろいろな指示を出す。そうしたことをつねに通訳を通してやっていたのでは野球にならない。ある程度の日本語が話せないと、キャッチャーとして機能しないからだ。

     もうひとつは、配球の問題があるだろう。日本では、初球を変化球から入ることが多い。また3ボール1ストライクや3ボール2ストライクの場面でも、変化球を要求する。外国では、こうしたケースではほとんどストレートを投げる。バッティングカウントで変化球を投げることが多い日本の野球を彼らがどう理解するかというところに外国人捕手の難しさがある。

     A・マルティネスは来日3年目で、ここまで2年間は2軍でプレーしてきた。
    その点では、日本のスタイルを十分に学んでいる。日本語もペラペラまではいかないが、ある程度話せるようになってきているらしい。

     彼に期待することは、100%日本の野球に馴染むことではない。日本の野球を知りつつも、そこにキューバ的な要素が入ってきた時に、また新しいスタイルが生まれるのではないかと思うからだ。
    「外国人キャッチャーは難しい」というこれまでの常識をひっくり返して、A・マルティネス選手には、プロ野球国際化の旗手になってもらいたい。

    青島 健太 Aoshima Kenta

    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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