令和の断面

【令和の断面】vol.23「無観客試合で大声は禁物」

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    「無観客試合で大声は禁物」

     開幕したプロ野球で思わぬ珍事が発生した。
     笑ってはいけないが、その事態を知って思わず笑ってしまった。

     神宮球場、東京ヤクルト対中日のゲームでその珍事は起こった。
     6月19日(金)の開幕試合を取材に行っていたが、たぶんこの時にももうすでに選手たちは、その異変に気が付いていたことだろう。

     中日の与田監督が、嶋田球審に相談したのは、第3戦の9回表だった。
     放送席の実況と解説の内容がグラウンドまで聞こえてくるというのだ。
     「キャッチャーがインコースに構えました」とか
     「ここはやはり変化球でしょう」とか。
     放送席のこんなやり取りがバッターボックスまで聞こえてくる。

     確かに神宮球場の放送席は、他の球場に比べて低い位置にあり、またホームプレートまで近い。窓もなくまっすぐ打席の方を向いているので、声を張る実況アナウンサーの声や、解説者が大きめの声を出せば、打者にその会話が聞こえてしまうだろう。

     第1戦は、試合開始から強い雨が降っていたので、そんなに気にならなかったのかもしれないが、第3戦は好天のデーゲームでいろいろな話が聞こえてきたのだろう。
     もちろんこれは、無観客試合ならではのハプニングである。

     もし、プロのバッターがあらかじめ投球のコースが分かったら、どのくらい有利になるのか。
     それは打者のタイプにもよるが、打率で言えば5分から1割くらいは向上すると思う。例えば、インコースという配球が分かれば、おのずと球種も絞られるからだ。右打者に右投手が投げているとすれば、インコースにスライダーやチェンジアップはない。ストレートかシュート系のツーシームと言うことになるだろう。そうなれば、どちらも早いタイミングでそのボールを待つことができる。これはプロの打者にとっては、かなり有利なことになる。

     与田監督も選手からの指摘の声を聞いて、球審に相談したようだが、選手たちも放送席から聞こえてくる内容をどうやって活かすかを考えていたに違いない。しかし、結局のところ両チームに同じように聞こえるのだから、お互いに打者に有利な環境だったと言えるだろう。

     どちらが、どれだけ聞こえてくる声を活かせたのかは分からないが、2勝1敗とドラゴンズが勝ち越したのだから、中日が良いスタートを切れたことは間違いない。

     観客がいれば、その応援の声にかき消されてこうしたことも起こらないのだが、これもまた無観客試合の面白さと理解すべきだろう。

     与田監督からの指摘を受けて、早速、改善策が講じられるようだ。
     放送席の前に透明のシートを下げて、その声を遮断することになったらしい。

     無観客試合では、両軍のベンチから発せられる声もよく聞こえるし、打球音や投球がキャッチャーミットに収まる音も良く聞こえてきて、これはこれで新しい魅力が伝わると思っていたが、敵は思わぬところにいたようだ。

     来週は、横浜でのラジオ解説があるが、人一倍声が大きいので、もし窓が開いていたらあまり大きな声は出さない方がいいかもしれない(笑)。

    青島 健太 Aoshima Kenta

    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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