「リモートマッチ」
日本トップリーグ連携機構(JTL)が、無観客試合を「リモートマッチ」と呼ぶことを決めた。
JTLは、サッカー「Jリーグ」や女子の「なでしこリーグ」、バレーボールの「Vリーグ」や男子バスケットボールの「Bリーグ」など、国内の球技「12リーグ」が連携する団体だが、無観客試合に代わる名称を募集し、9156件の応募の中から「リモートマッチ」を採用した。
元来、「無観客試合」には、ペナルティーの意味が込められている。
ホームゲームでの無観客は、入場料収入がまったくない。また、熱い地元サポーターからの応援をもらうこともできない。サッカーをはじめ、あるチームに無観客試合が求められる時には、減収を課す懲罰として行われてきたのだ。
かつては、Jリーグの浦和に無観客試合が課せられたことがある。
スタジアムに差別的な横断幕が掲げられたのが原因だった。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くのスポーツが無観客試合を強いられていることは誰もが知るところだ。
もうすでに無観客試合という言葉もすっかり定着してしまったが、これからさまざまなスポーツが動き出す時に、「リモートマッチ」という新しい名称が、選手、関係者、ファンやサポーターにも親しまれていくことだろう。
「リモートワーク」や「リモート飲み会」といった言葉も、もう社会の常識になってしまったが、例えスタンドやアリーナが無観客であっても、遠隔(リモート)でみんなつながっているという思いが「リモートマッチ」には込められている。
5月下旬、知り合いの印刷業者とあるスポーツチームを訪ねた。
その印刷会社は、段ボールやいろいろなものに印刷をする技術を持っていた。
ドイツのブンデスリーガなどでは、無観客試合のスタンドにサポーターの顔を印刷した実物大のアバター(身代わり)を並べて客席を埋めていた。
これにヒントを得て、日本でもやりたいと営業に飛び込んだのだ。
担当者は、我々の提案を丁寧に聞いてくれたが、結局は採用に結びつかなかった。
もうすでにそうした企画が何件も持ち込まれていて、いくつかは実現に向けて動き出しているとのことだった。
要は、完全に出遅れていたのだ。
しかし、その時に思った。
ビジネスとしては、我々は完全に後手を踏んでしまったが、味気ない無観客試合を何とか華やかにしたいという思いは多くの人(関係業者)が持っていた。
ファンやサポーターとどうやってつながるか。
そこにあったのは、「リモートマッチ」という発想だ。
この言葉が使われることによって、これからもっともっといろいろな発想が生まれてくることだろう。
プロ野球は、JTLに参加していないが、新型コロナウイルスへの取り組みは、Jリーグと一緒になって進めてきた。
プロ野球がこの言葉を使うかどうかは分からないが、「リモートマッチ」という発想を共有していることは確かだ。
ファンやサポーターとどうやってつながっていくか。
開幕を迎えるプロ野球やシーズンが再開されるJリーグにとって、それぞれの取り組みがいよいよ問われることになる。
応援したいファンやサポーターの気持ちを、リーグやチームは上手く受け取って、リモートマッチを盛り上げてもらいたい。
そして、願って止まないのは、この「リモートマッチ」という言葉が、いつしか死語になって、近い将来、忘れ去られることである。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。