「ネーサン・チェンの向上心」 – 災い転じて福となす –
「災い転じて福となす」
今、コロナ禍と向き合いながら、日本中のアスリートが、いや世界中のアスリートが考えていることだろう。
試合もない、練習も思うようにできない。
苦しい状況が続いていることは確かだ。
しかし、この事態に負けたくない。
逆に考えれば、スポーツ的活動ができない今だからこそ、やれることがあるはずだ。それをやることでさらに飛躍する。その向上心こそが、アスリートの本質であり神髄だといえるだろう。
その一例を挙げるなら、時事通信がこんなニュースを伝えている。
男子フィギュアスケートの世界王者、アメリカのネーサン・チェン選手が、コーチ資格を取得したというのだ。
チェン選手は、今や羽生結弦選手の最大のライバル。
しかも、まだ弱冠20歳の選手だ。
これからの伸びしろを考えれば、羽生選手にとってもさらに厳しい相手になるだろう。
そのチェン選手は、3月の世界選手権が中止になった時点で、コーチ資格を取ろうと思い立ったそうだ。
アメリカのフィギュアスケートのコーチは、プロスケート協会が設けているコーチ試験を必ず受けて、その資格を取得しなければならない。
チェン選手は、この試験を受けて見事合格した。
しかも満点で。
コーチ資格を取得しようと思った理由を彼はこう話している。
「このパンデミック(感染拡大)で後退されられているが、別の方法で物事を研究できる。(コーチングを学ぶことで)より知的に関与させてくれる」
これまでも子どもたちと接してきたチェン選手だが、これからは「資格を認められたからコーチとして教えられる」と新たな意欲も語っている。
名門エール大学の学生であるチェン選手が、今後スケートの指導者になるのかどうかは分からない。また、もしコーチになるとしてもまだまだ先の話だろう。
それでも彼が、今この時期にコーチの資格を取得する狙いは、どこにあるのだろうか。
もちろん時間があるので「取れる時にとっておこう」という単純な発想もあるかもしれないが、やはり一番大きな理由は、彼が言う「別の方法で物事を研究できる」ということだろう。
人に物事を指導しようとする時、何が求められるか。
それはやってみればすぐに分かることだが、自分のやっていること、教えようとすることを客観的に捉える必要がある。また相手の個性によって、方法論が違ってくる。つまり上手くなるためのアプローチには、いろいろな方法があり得るのだ。
自分だけの感覚と経験に頼るのではなく、他人の良いところ、悪いところを知ることによって、それを自分自身に活かすことができる。
何かを指導するとは、結局は自分自身を知る作業なのだ。
それをチェン選手もよく分かっているので、その行為を「知的に関与させてくれる」と言っているのだ。
今、さまざまな選手がユーチューブなどで、自分の技術やトレーニングを披露したりしている。子ども向けのプログラムを発信している選手もいる。ファンとの絆を作りながら、彼らもそうしたことを通じて多くのものを学んでいるのだ。
「災い転じて福となす」
アスリートは、この機をチャンスに変えなければならない。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。