「何も咲かない冬の日は、下へ下へと根を伸ばせ」
週末は、男女のゴルフ中継が楽しみだ!というゴルフファンは多いことだろう。
私も仕事や用事がなければ、週末はゴルフ中継を見ながら過ごす。私自身は決して上手なプレーヤーではないが、プロゴルファーのプレーを見ていると、自分まで上手くなったような気になるから不思議だ。難しいショットも、彼らがいとも簡単にやってのけてしまうからだろう。また、自分がラウンドしていなくても、美しいゴルフ場の景色を見ていると、実際にその場にいるように感じることも、ゴルフ中継の楽しみなのだろう。
しかし…。
そんなゴルフも、他のスポーツ同様、今はまったく行われていない。
男女とも、ツアー大会の開催を見合わせているからだ。
プロゴルファーたちは、今、どうしているのだろうか。
そう思っていると、日本経済新聞に藤田寛之プロのコラムを見つけた。
ゴルフファンには、お馴染みのベテラン選手(50歳)だ。
体格的に恵まれている方ではない。身長168センチ。
それでも日本ツアー18勝。派手さはないが、機械のような正確なショットが持ち味で、アプローチやパッティングでファンを魅了する。感情を表に出すことはなく、いつも淡々と自分のプレーに徹する。私はそこが大好きだ。
その藤田選手は、コロナ禍の中でも自分流のトレーニングを続けているという。
試合のない今をシーズンオフの延長と捉えて、技術的な練習はもちろん、身体を強化する筋力トレーニングやランニングにも積極的に取り組んでいるそうだ。
もともと彼は、身体を存分に鍛えられるオフが好きで、いつもオフが短いと感じていた。だから今は、長いオフをプラスに捉えて、ゴルフコースでの実戦練習もこなしながら、しっかりと戦う準備を整えたいと、近況を報告している。
厳しい今の時期を長いオフと捉えて、徹底的に戦える身体をつくる。
その藤田選手の考え方を知って、ある人の言葉を思い出した。
『何も咲かない冬の日は、下へ下へと根を伸ばせ』
京都大徳寺大仙院の尾関宋園和尚が「平常心」という本の中で紹介している言葉だ。
ほぼ50年前のこと。
私は中学生の時に、実は、この尾関宗園住職にお会いしたことがある。修学旅行で京都に行った際、大徳寺を訪ね偶然にもお会いしたのだ。
その時にこの言葉が壁に貼ってあった。
どんな会話をしたのかは覚えていないが、この言葉だけはそれ以来ずっと私の中に留まっている。
今は、藤田選手だけでなくほとんどのスポーツ選手が、同じ思いでいるはずだ。
『何も咲かない冬の日は、下へ下へと根を伸ばせ』
しかし、ビジネスや商売で大変な状況にある方々にとっては、どんな花でも、つぼみでも、たとえ葉っぱでも付けてこの事態を乗り切ろうとしていることだろう。今、根を伸ばせるのは、ある意味で余裕があるからだということも承知している。そこは誤解のないように願いたい。
ただ、スポーツ選手にできることは、それしかない。
とにかく今は、しっかりと根を伸ばす。
冬が終われば、必ず春が来るはずだ。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。