令和の断面

【令和の断面】vol.12「メジャーリーグで議論されている7回制」

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    「メジャーリーグで議論されている7回制」

    日本のスポーツ界は、いや世界のスポーツが、今、大変な危機を迎えている。
    プロ野球の開幕も4月24日を目指していたが、これも厳しいという状況だろう。
    ついに選手からも新型コロナウイルスの感染者が出た。阪神から3選手、2軍戦で阪神の選手と接触した中日の選手も罹患が心配されている。
    サッカーJリーグの選手からも、陽性反応が出た。発症前には練習試合にも出場していたので、他の選手への感染も懸念される。
    その他のスポーツもプロ、アマを問わず、ほぼすべてチーム、選手が活動を自粛している状態だ。

    海外に目を向けても置かれている現状はまったく一緒だ。
    ヨーロッパのサッカーは中断し、アメリカのプロスポーツもすべて停止している。
    スポーツを題材に原稿を書こうとしても、明るい材料が見当たらないのが現実であり、悲しいことだ。とにかく今は、この未曾有の危機と世界中の人と一緒に戦うしかない。

    連日報じられている感染拡大のニュースから目を背けることはできないが、そんな中で、ある意味では前向きな情報に目に留まった。
    それはアメリカ大リーグ、MLBから発信された改革案だ。
    メジャーリーグも予定通りの開幕を見送り、次なる開催時期を検討している。
    当初は4月や5月と楽観的な見通しもあったが、アメリカでの感染者の増加で、開幕の時期についてはまったく不透明な状況になっている。
    MLBのロブ・マンフレッドコミッショナーは、「162試合すべてをこなすのは難しいだろう」とコメントし、「最低でも100試合は、消化したい」と語った。

    その際に注目の改革に言及した。
    それは現行9イニング制で行われている試合を「7イニング制」にすることも検討しているというのだ。短い期間で試合数を消化するためには、ダブルヘッダーも組まなければならない。その際に試合時間を短縮するために7イニング制で2試合をやろうというのだ。これはまだダブルヘッダーに限った話だが、こうしたゲームがもし行われると、9イニング制に対する考え方ももっと柔軟になる可能性がある。

    私はかねてから野球の将来にとって、「7イニング制」を協議することは、十分に価値があると思っている。
    それは野球が抱えるいくつかの問題点に対して、その解決策になる要素を持っているからだ。
    例えば、試合時間の問題。
    日本のプロ野球の1試合平均時間は3時間を超えている。これに比べてサッカーは前半後半を合わせて90分だ。野球がテレビの地上波から消えた理由の一つに試合時間の長さがある。最長でも3時間以内、できれば2時間でおさめたいところだ。

    また9イニングを戦うとなるとそれだけの選手数が必要であり、選手への肉体的ダメージも大きい。先発投手も長く投げることになる。7イニングになれば、それだけ選手への負担を軽減することができる。
    そしてこの観点がもっとも大事なのは、高校野球の選手にケガや故障をさせないということだ。

    現実味のない話をしていると思われるかもしれないが、他のスポーツを見れば、こうした試合のダウンサイジングは当然のように行われている。サッカーやラグビーは大人より短い時間で試合を設定している。また男子テニスは、グランドスラム(全豪、全仏、全英、全米)だけは、5セットマッチになっているが、その他の大会はすべて3セットマッチで行われている。クリケットも時間を短くしたゲームスタイルが何種類もある。野球もやってやれないことはないのだ。

    先人たちの記録を大切にする野球では、「同じ条件でなくなってしまう」というのがこれを認めない最大の理由だろうが、五輪や国際大会など、決められた期間内で多くの試合をこなした時には、7イニング制の方が合理的だ。野球のさらなる発展を考えれば、ゲームのスピードアップは不可避な課題だ。

    メジャーリーグがどういう決断をするかは、まだ分からないが、現実に7イニング制が議論されていることは、大きな注目点だ。

    青島 健太 Aoshima Kenta

    昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
    慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
    同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
    5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
    オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
    現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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