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vol.63 今さらだけど日本人メジャー・リーガーのプレーが見たかった

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    スコア以上に力の差を感じてしまった今大会

     WBCが終わり、間もなく(3月31日)には、日本プロ野球も開幕する。センバツ高校野球は、そのWBCや、大相撲で左肩の負傷にもかかわらず逆転優勝を果たした稀勢の里の人気もあって、どちらかというと報道を見ても、隅に置かれたような感じもあったが、それでも準決勝、決勝となれば、注目度も上がってくるだろう。
     球春は一気にピークモードだ。
     “今さら”感もあるが、WBCを振り返っておくと、スコアだけを見ると、ただただ惜しい。しかし、一方で試合内容を含めて言うと、個人的には点差以上に力の差があったように感じている。大げさかもしれないが、どこまで行っても詰まらない差があった。
     それは選手の技術以前に、環境の差、経験の差と言われる部分だ。

     名手・菊池のエラーは、降りしきる雨の中、菊池が予想した以上にボールが滑ったというのは間違いない。地元のマツダスタジアムは天然芝で雨中の試合も経験しているではないか、という声も上がろうが、ゴルフで言うベント芝と高麗芝の違いとか、競馬で言えば野芝と洋芝の違いとか、その辺の“芝生”の微妙な違いが、名手を陥れたのだと思う。
     決勝点となった松田のプレーは、一塁で打者走者をアウトにしているので、記録上はエラーにはならないが、痛恨のミスとしか言いようがない。
     これも雨に濡れた天然芝が生んだ、ちょっとしたバウンドの変化が原因となった“エラー”だと思う。

     それでも、今回の成績を含め、日本代表はWBCを、優勝、優勝、ベスト4、ベスト4という結果となっている。4大会通じていずれもベスト4以内という成績は、素直に日本野球のレベルの高さを表しているのは間違いない。
     それに加えて今回は、メジャー・リーガーの出場は青木宣親ひとり。それもここの選手というよりも所属しているチームの事情や希望もあって、出場辞退に追い込まれた選手ばかり、その中でのベスト4だから、これは誇っていい。

    やっとWBCに本気で向き合った“母国”アメリカ

     今大会は「野球の母国」でもあるアメリカが4回目にして初優勝を果たしたわけだが、それについて、「やっとWBCに本気で向き合った結果」という人が多い。球団の事情よりもWBCへの参加を優先させた選手が多く、強力なチームが出来上がったということなのだろうが、上記した通り、日本選手に対しては、球団から参加を制限させておいて、それはないだろうと、釈然としない思いはある。

     イチローがいて、ダルビッシュがいて、田中将大が、マエケン、岩隈、上原らがみんな出ていたら、きっと結果は違ったものになっていたはずだ。
     それはそれとして、今回のアメリカの優勝で、よかっただろうと思われることを一つ。優勝の喜びを得て、アメリカはまた、WBCへの本気度を増すはず。以前にも書いたが、毎回毎回、「今回限り」をうわさされ続けてきたWBCは、間違いなく続行の予定で進んでいくだろう。その点は、日本球界にとっても、歓迎すべきことである。

     さて、日本プロ野球。昨年の日本シリーズを制した日本ハムの大谷翔平はどんなプレーを見せてくれるのか、セの覇者・広島の戦いは、と興味は尽きない。大いに盛り上がる1年になってほしいと望まずにはいられない。

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