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vol.61 恩人の野球殿堂入りに、思い出したあのころのこと

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    野球人にとっての栄誉である野球殿堂入り

     今年の野球殿堂入りが発表になったのは、1月16日。エキスパート部門で星野仙一氏、平松政次氏。プレーヤー部門で伊東勉千葉ロッテ監督が殿堂入りを果たしたことは、皆さんもよくご存知だと思う。
     殿堂入りの選考に関しては、選ばれて当然と言える元選手の方が選ばれなかったりしたこともあって、その方法も刻々と変わってきている。

     投票する記者、関係者からの不人気のせいで、圧倒的な実績を上げながら、なかなか選ばれなかった方も実際にいらした。そういう舞台裏を知ると、不謹慎と言われるかもしれないが、選ばれる側にとっても、選ぶ側にとってもいろいろ、口には出せない思いがあるのだろうな、と推測をし、なんだかその裏事情も垣間見えて、ついつい笑ってしまう。
     今回は選手や監督として実績を残しているお三方の選出とあって、報道も十分になされていたように思うが、実は他にお二人、特別表彰という形で殿堂入りを果たしている。

     アマチュア野球関係者や裏方さん、選手以外での野球界への貢献者などを表彰するもので、今回はいずれも故人であるが、お二人が選ばれている。大学野球や高校野球で名審判と活躍をされた郷司裕氏と、長く野球規則委員としてご活躍をされた鈴木美嶺氏である。
     中でも鈴木美嶺さんは、私にとって恩人ともいえる方だ。だから、今回の表彰がことのほかうれしい。

    駆け出しの私にやさしくアドバイスをくれた

     もう35年余り前のことになる。ベースボール・マガジン社に入社した私は、週刊ベースボールの編集部に配属となった。その時、向かいの席にいらっしゃったのが鈴木美嶺さんだった。東大野球部出身の鈴木さんは、毎日新聞社で野球記者として活躍される傍ら、野球規則委員として長くご活躍をされていた。定年を迎えられ、ベースボール・マガジン社に顧問として迎えられ、野球規則に関する書籍や、米国の野球関連書籍の翻訳などを主に担当されていたのである。
     鈴木さんは春夏の高校野球の取材で甲子園にも必ず行かれていた。
     私はというと、高校大学と野球経験があったこともあって、入社前にもかかわらず、3月末から始まるセンバツ甲子園の取材スタッフに加わり、いきなりの甲子園デビューとなった。
     “ど”がつく新人である。右も左もわからぬ私に鈴木さんを含めスタッフがいろいろ教えてくださり、手助けもいただいた。そこでは、単に動き方ならず、取材の仕方、原稿の書き方など、甲子園の現場で、さらにはご一緒する機会が多かった昼夜の食事の際にも、いろいろとお話を聞かせていただき、アドバイスももらった。

     あれから30余年がたった今でも、あのころ鈴木さんから頂いたアドバイスを思い出すことがある。原稿を書く上でのヒント、野球の見方…、そうそう、スコアブックの書き方も鈴木さんの書き方を真似た。俗に「早稲田式」、「慶応式」と言われる書き方があって、それぞれ、独特の書き方で、見た目は大きく異なる。
     どちらにしても、その表記がわかっている人にとって、あとで見て正しく伝わればいいのであって、こうでないといけないという決まりはないという考え方。実際に、スコアをつけている人間にとっては、多少書き方が異なっても、それなりに正しい方法でつけていれば、記録者の伝えたいことは分かるものだ。

     鈴木さんのそれも、マニュアルで伝えられているものとは一部違いがあるが(本筋は同じ)、それはそれで、その方がよくわかると思ったから、私は真似をさせてもらったのである。
     それは東京六大学の公式記録員を務めさせていただいた間も生かすことができたと自負している。
     鈴木さんがお亡くなりになったのが1991年。25年余りの年月が過ぎているが、今でもいろいろなことが昨日のことのように思い出される。
     美嶺さん、野球殿堂入り、おめでとうございます。

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